米EU首脳会談、ウクライナ支援などで一致、鉄鋼・アルミ貿易や重要鉱物巡る交渉は継続

(米国、EU)

ニューヨーク発

2023年10月24日

米国のジョー・バイデン大統領は10月20日、訪米中の欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長および欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長と、首都ワシントンで会談した。会談後に共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、国際的な諸課題への対応や米国EU間の経済協力の強化を掲げた。

共同声明では、イスラエルとパレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの衝突を巡り、イスラエルが国際法に従ってハマスの攻撃から自国を守る権利を確認すると記した。また、武力衝突の地域的な拡大を防ぐことが重要との認識を示した。ロシアのウクライナ侵攻については、米国とEUによる「ウクライナとその国民に対する長期的な政治的、財政的、人道的、軍事的支援に揺るぎはない」と訴えた。対ロシア制裁を迂回する行為には、今後も制裁と輸出管理を厳格に実施すると主張した。

共同声明には、インド太平洋地域における連携も盛り込まれた。それぞれのインド太平洋戦略に沿って、インド太平洋における実務的な協力を強化する機会を探ると言及した。中国に関しては「率直に関わり、われわれの懸念を直接伝える重要性を認識し、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」と明記した。経済的なデカップリング(分断)は目指さないとしつつ、リスク軽減のために国家安全保障に関わる先端技術を保護する必要があると指摘した。また、経済的威圧や非市場的政策への対処も挙げた。

米国EU間の経済協力では、米国EU貿易技術評議会(TTC)における進展(2023年6月6日記事参照)を評価し、2023年内に開催予定の第5回閣僚会議に向けて共同作業を進めることを奨励した。TTCで策定した「信頼できる人工知能(AI)とリスク管理に関する共同ロードマップ」を通じて、AIのリスク管理と信頼性のあるAIに関わるツールや手法を開発するための継続的な取り組みを確認した。

今回の首脳会談では、米国とEUが2021年10月以降、交渉を続けてきた「鉄鋼・アルミニウム・グローバルアレンジメント」と、2023年3月に交渉入りを決めた重要鉱物協定がそれぞれ合意されるか注目されていたが、いずれも合意には至らなかった。鉄鋼・アルミ貿易に関する交渉は、世界の鉄鋼・アルミを巡る炭素排出と過剰生産問題への対処を取り決めるもので、2023年10月末が交渉期限となっていた(2021年11月2日記事参照)。共同声明では「この2年間で、われわれは非市場的な過剰生産能力の原因を特定するために大きな進展を遂げた」などと指摘しつつ、今後2カ月間、交渉を続けると表明するにとどまった。

一方、重要鉱物協定は、EUで採掘または加工された鉱物が米国のインフレ削減法(IRA)のクリーンビークル(注)税額控除のバッテリー調達価格要件を満たせるようにすることが目的だ。共同声明では「今後数週間、これらの交渉を引き続き進展させ、それぞれの利害関係者と協議する」と説明したが、具体的な交渉期限は明示されなかった。政治専門紙「ポリティコ」(10月20日)によると、米国とEUは協定の労働や環境に関する規定を巡って見解の相違を解消できていないもようだ。

(注)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。

(甲斐野裕之)

(米国、EU)

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