米FRBパウエル議長が金融政策決定に当たっての不確実性を指摘、米ジャクソンホール会議
(米国)
ニューヨーク発
2023年08月28日
ジャクソンホール会議での講演において、米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、追加利上げの可能性を含めて、総じて金融引き締め姿勢の継続を示した(2023年8月28日記事参照)。また、金融政策の実体経済への影響評価、インフレ圧力となり得る労働市場、そして今後の金融政策の課題についても言及した。
パウエル議長は、金融政策の実体経済への影響について、金利の上昇に加え、銀行の貸し出し態度の厳格化が鉱工業生産や住宅投資などに影響を与えていると分析した。他方で、経済が予想したほど鈍化していない兆候もあるとも述べた。具体的には、GDP成長率の伸び(2023年7月28日記事参照)が予想を上回っているほか、個人消費支出も堅調であり、住宅セクターも回復の兆しを見せていることを挙げた。持続的にトレンドを上回る成長を示す追加の証拠があれば、金融政策のさらなる引き締めが正当化される可能性があるとした。
労働市場については、供給側では、25~54歳までの労働参加率の上昇と移民の増加を主因として新型コロナウイルスのパンデミック前の水準まで改善したとした。需要側では、求人数は依然として高い水準にあるものの減少傾向にあることなどを挙げ、労働市場の需給状況が徐々に正常化していると述べた。こうした労働需給の緩和から、賃金上昇圧力は緩和されつつあるものの、インフレ率の低下に伴って実質賃金の伸びは拡大しているとした。労働市場については、労働需給の緩和が今後も続くと総括し、仮に労働市場の逼迫が緩和されない場合には金融政策の対応が必要になる可能性があると述べた。
パウエル議長は講演の最後に、今後の金融政策の課題として次の3点に言及した。
- 金利水準について。名目金利から期待インフレ率を除いた実質金利の水準が十分に抑制的なものになっているか。現在の実質金利は景気に対して中立的な水準を上回っていると見ているものの、この水準は正確には特定できないとし、適正な金利水準には不確実性があるとした。
- 金融政策の効果のタイムラグについて。金利引き上げと量的引き締め(QT)がどのくらいの期間で効果が生じるのか不確実とした。
- パンデミックに伴う労働需給の混乱が、インフレ率と雇用の関係性を複雑にしている点について。フィリップス曲線(注)によれば、通常、金融引き締めによりインフレ率が低下すれば失業率が上昇する。しかし、現在のところ求人数は減少しているものの、失業率は増加していないという異例の結果が起きており、これは労働力に対する過剰な需要を示している可能性があると分析した。また、インフレ率が労働市場の逼迫に敏感に反応している可能性もあると指摘した。こうした特殊な環境が持続的なものであるか否かはっきりしないため、臨機応変な政策決定が必要になるとした。
今回のパウエル議長の講演では、これまでの金融引き締めがインフレ緩和に与えた影響を評価しつつ、追加利上げの可能性を含めて総じて金融引き締め姿勢の継続を示した。しかし、金融政策のかじ取りに当たってのさまざまな不確実性について言及しているように、経済のソフトランディングに向けて、「データ次第」ではアドホックな金融政策を強いられる苦悩が垣間見えたかたちだ。
(注)物価上昇率と失業率の関係を示す曲線。通常、物価上昇率と失業率には負の相関があり、物価が上昇した場合に失業率は低下し、失業率が上昇した場合に物価は低下するとされる。また、非線形であることから、FRBは同曲線でいう急勾配の段階にある場合には、労働市場情勢が少し変化するだけでも物価に大きな影響を与え得るとしている。
(加藤翔一)
(米国)
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