米下院の中国特別委、米VCの対中投資を調査開始、人権侵害や軍民融合への関与を懸念

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年07月21日

米国連邦議会下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)」は7月19日、米国のベンチャーキャピタル(VC)の中国企業への投資について調査を開始したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党、ウィスコンシン州)とラジャ・クリシュナムルティ少数党筆頭理事(民主党、イリノイ州)が、米国のVC4社に対し、人工知能(AI)や半導体、量子コンピューティング分野の対中投資に関して情報提供を求める書簡を送付した。

調査の対象は、いずれもカリフォルニア州に本社を置くGGVキャピタル、GSRベンチャーズ、クアルコム・ベンチャーズ、ウォルデン・インターナショナル。ギャラガー、クリシュナムルティ両議員は書簡で、中国の軍民融合政策により「中国のテクノロジー企業に真の民間企業は存在しない」と指摘した。その上で、米国のVCによる中国のAI企業などへの投資が、中国における人権侵害や軍の現代化に寄与するとの懸念を示した。

書簡では、懸念される各社の対中投資を例示した。GGVキャピタルに関しては、顔認証AIを開発し、米国政府による制裁対象(注1)となっているメグビーへの投資などを挙げた。GSRベンチャーズはAIチップ開発のホライズン・ロボティクスなど、クアルコム・ベンチャーズは自動運転システムを開発する縦目科技(ZongMu)など、ウォルデン・インターナショナルはAI企業のインテリフュージョン(注2)などに投資実績があると言及した。

調査内容は、各社がこれまで投資した中国企業名や、投資金額、投資先に提供した助言、投資先と中国政府との関係など多岐にわたる。中国企業への投資を検討する際の社内方針や考慮するリスク要因についても説明するよう要請している。回答期限は8月1日に設定されている。

ギャラガー委員長はプレスリリースで、「中国にとって戦略的な優先分野への投資に厳しい目を向ける必要がある。なぜなら、われわれは、中国が軍事や監視の目的で民間企業を活用していることを知っているからだ」と指摘した。同氏は調査に基づいて、問題のある対中投資を規制する法案の策定を支援する意向だ(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版7月19日)。中国特別委員会は5月に発表した政策提言でも、人権侵害に利用され得る技術分野の対中投資の制限を主張している(2023年5月30日記事参照)。

連邦議会ではこれまでも、米国企業の対外投資を審査する制度を設立する法案が提出されてきたが、成立には至っていない。一方、バイデン政権も対外投資規制を検討しており、ポール・ローゼン財務次官補(投資安全保障担当)は5月の上院公聴会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、規制対象に関し「先端半導体、AI、量子コンピューティングなどの懸念される特定分野へのノウハウや専門知識(の移転)を伴う投資資金の流れ」に焦点を当てると説明している。

(注1)メグビーは2019年10月、中国の新疆ウイグル自治区におけるウイグル族などの人権侵害に関与しているとして、商務省によって輸出管理規則(EAR)上のエンティティー・リスト(EL)に掲載された(2019年10月9日記事参照)。また、2021年12月には、同様の理由で、財務省によって米国人による証券投資の禁止対象に指定された(2021年12月17日記事参照)。

(注2)インテリフュージョンは2020年6月、ウイグル族などの人権侵害に関与しているとして、ELに掲載外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされた。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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