EU首脳、対中関係におけるデリスキングの方針を確認

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月04日

EUは6月29~30日、ブリュッセルで欧州理事会(EU首脳会議)を開催し、ロシアによるウクライナ侵攻に関連した今後の支援策、安全保障と防衛、域外政策のほか、対中政策や経済政安全保障に関する総括外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

対中関係に関しては、EUのパートナーであると同時に、競争相手かつ体制的ライバルであるとする中国の位置づけを再確認。気候変動などの世界的な課題においては協調し、経済面では公平な競争環境の確保と互恵的な関係を目指すとしつつ、重要分野での中国依存の軽減など、デカップリングではなくデリスキング(リスク軽減)に向けて取り組むとした。

欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は欧州理事会後の記者会見で、総括での対中政策について、加盟国間ですぐにまとまったとして、EUと加盟国の一致した方針であることを強調した。これにより、欧州委員会だけでなく、EUの政治上の最高意思決定機関である欧州理事会としても、中国とのデリスキングを推進する方針を明確にした格好だ。

このほか対中関係では総括で、緊張が高まっている台湾海峡に関して懸念を表明し、武力による一方的な現状の変更には反対するとした。EUの一貫した立場として、「一つの中国」政策もあらためて確認した。新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題にも言及した。

総括では、域内に限らず世界でEUの利益を守るため、これまでどおり開かれたEU経済を堅持しつつ、EUの経済安全保障を強化する必要性を強調した。AI(人工知能)規制枠組み法案(2021年4月23日記事参照)、ネットゼロ産業法案(2023年3月20日記事参照)、重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)などを念頭に、特に域外国に影響を受けやすい分野における域内産業の強化や域外国への依存軽減など、EUの経済政策の方向性を確認した。ただし、今回の欧州理事会に先立って欧州委が発表した、EU初となる経済安全保障戦略(2023年6月23日記事参照)への直接的な言及はなかった。

EUの難民関連法の改正を巡り、ハンガリーとポーランドが孤立

移民政策については、総括には盛り込まれず、ミシェル常任議長の総括として別途発表する異例の対応となった。背景にあるのは、難民関連法の改正案を巡る、ハンガリーとポーランドの反対だ。EU理事会(閣僚理事会)が6月に、長年の懸案だった難民関連法の改正案の立場でようやく合意。柱となるのは、難民が最初に入国する地中海沿岸などの加盟国の負担軽減策として、他の加盟国がこうした加盟国からの難民の受け入れ、あるいは経済的負担の提供を選ぶ「連帯メカニズム」だ。改正案の立場は特定多数決により採択されたものの、ハンガリーとポーランドはこの立場に反対していた。移民政策を全加盟国の同意を必要とする欧州理事会の総括に含めず、ハンガリーとポーランドの名前を挙げた上で、両国の主張にも言及したミシェル常任議長の総括としたことから、EUにおける両国の孤立が際立つ結果となった。

(吉沼啓介)

(EU)

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