2021年末のドイツの対中直接投資残高、初の1,000億ユーロ台に

(ドイツ、中国)

ミュンヘン発

2023年05月30日

ドイツの主要経済研究所の1つのケルン経済研究所(IW)は5月17日、ドイツの対中国直接投資動向(残高とフロー)を分析し、投資先の多様化の進捗を考察したレポートを公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同レポートは、主にドイツ連邦銀行(中央銀行)が4月に発表した対外直接投資(残高)統計外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを基にしている。

直接投資(残高)統計は企業からの報告を基に作成するため、ドイツ連邦銀行によると、公表まで約16カ月かかる。このため、ドイツ連邦銀行が4月に発表したのは、2021年末のドイツの対外直接投資(残高)統計。IWのレポートは、同統計では2021年末のドイツの対中国(香港を除く)直接投資残高は1,026億9,400万ユーロで、2020年末(920億9,600万ユーロ)から11.5%増加し、初めて1,000億ユーロ台に到達したことが明らかになったと紹介した。

ドイツ連邦銀行の上述の統計に基づき、中国と他国を比較してみると、英国への直接投資残高(1,022億1,300万ユーロ)を抜き、中国は国別で米国(4,089億3,200万ユーロ)、ルクセンブルク(1,085億5,500万ユーロ)に続く3位だ。また、ドイツの対外直接投資残高総額(1兆4,263億9,900万ユーロ)に占める中国の割合は7.2%で、2019年末(6.5%)、2020年末(7.1%)から拡大傾向にあることも見て取れる。ドイツの対中国直接投資残高を産業・業種別(被投資側)にみると、全体の67.0%の687億6,300万ユーロを製造業が占めた。うち自動車・同部品が283億2,000万ユーロ(全体の27.6%)、化学が99億8,900万ユーロ(9.7%)、機械が78億3,600万ユーロ(7.6%)と続いた。

IWはレポートの中で、ドイツ連邦銀行が2023年3月に公表した国際収支統計PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、2022年のドイツの対中国直接投資額(フロー)が115億ユーロだったとし、あくまで推計にすぎないとしたものの、2022年末のドイツの対中国直接投資残高は1,140億ユーロ程度と見込んでいる。IWは2022年のドイツの対中直接投資額(フロー)が過去最高だった点を指摘、地政学的リスクが高まっているにもかかわらず、ドイツ企業は総体としては、対中国投資を抑え、投資先を多様化する措置を取っていないと結論付けた。

IWはその理由として、(1)中国政府の要請に加え、中国を自社の競争力向上のための拠点にすべく、企業が中国での研究開発やサプライチェーンの現地化を進めている、(2)地政学的リスクを見据えて、貿易戦争や有事が発生した場合、自社の中国ビジネスを他地域・国と切り離すことができるよう、現地化を進めているとした。

ドイツ商工会議所連合会(DIHK)が4月に発表した企業アンケート結果では、中国向け投資計画を有する企業の割合が低下、DIHKは調達先・販売先の多様化とサプライチェーンの再構築が始まったとしていた(2023年4月25日記事参照)。他方、ドイツ企業が中国に工場を新設する動きもあり(2023年5月16日記事参照)、ドイツ企業の対中国戦略に注目が集まっている。

(高塚一)

(ドイツ、中国)

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