インフィニオン、欧州半導体法を背景に過去最大の投資となる新工場に着工

(ドイツ、欧州)

ベルリン発

2023年05月08日

ドイツの半導体大手インフィニオン・テクノロジーズは5月2日、ドイツ東部ザクセン州ドレスデンで新たな半導体工場の起工式を行った外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。同工場は300ミリメートルウエハー対応で、2026年秋に生産開始の予定(2022年11月18日記事参照)。式典には、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、ドイツのオラフ・ショルツ首相らが参加した。

今回建設する工場は、脱炭素化とデジタル化を推進する最新技術を導入した「スマート・パワー・ファブ」となる。また、ドレスデンとオーストリア・フィラッハの工場を「ワン・バーチャル・ファブ」として連携させ、1つの工場のように運用することが可能。これにより生産性の向上だけでなく、資源とエネルギーの効率が高く、環境負荷の低い半導体製造を実現する。

同社は新工場の建設に当たり、欧州半導体法(2023年4月20日記事参照)に基づき10億ユーロの補助金を申請している。投資総額は約50億ユーロの予定で同社史上最大。同社は2月16日にドイツ経済・気候保護省からプロジェクトの早期開始の承認を得たと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしており、欧州委による補助金審査完了に先立って建設を開始できた。

式典では、フォン・デア・ライエン委員長が、半導体の世界的な製造拠点である台湾と韓国には(地政学的な)緊張があるとして、「貿易ルートが少しでも途絶えると、欧州の有力な産業基盤と域内市場は直ちに影響を受ける」と指摘。欧州では、欧州産半導体の世界シェアを2030年までに20%とすべく半導体生産能力の強化に取り組む中で、このザクセン州への投資が欧州全体にとって重要と強調した。さらに、シリコンメタルなど半導体チップの製造に必要な重要原材料の調達についても、域外国からの供給依存を解消する重要原材料の確保に向けた規則案(2023年3月22日記事参照)に触れ、サプライチェーンの強化を図るとの考えを示した。

ショルツ首相は、2030年までに電力消費量の80%を再生可能エネルギーとし、2045年までに気候中立〔温室効果ガス(GHG)の排出量実質ゼロ〕とするドイツの国家目標達成のカギは、半導体生産だとの認識を示した。風力や太陽光発電設備、ヒートポンプ、電気自動車のいずれにも半導体が不可欠なためだ。一方で、欧州半導体法による域内での半導体生産能力の強化策は、世界的なサプライチェーンやバリューチェーンの解体や経済領域の分断を目指すものではなく、あくまで「過度な依存関係から生じるリスクの低減、供給源の多様化、域内の独自のキャパシティの戦略的な拡大が目的だ」との、デリスキングを目指す見解を示した。

ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)のアヒム・ベルク会長は同日、声明を発表し、「製造業の90%は半導体が必要で、80%は半導体が不可欠とさえ言われている」とその重要性に言及した。今回の新工場にEU補助金など公的資金が投入されることを歓迎するとともに、「アジアや米国など主要な半導体製造国との競争において、より平等な競争機会を確保する重要な一歩だ」と評価した。

(中村容子)

(ドイツ、欧州)

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