メキシコ政府がスペインのイベルドローラから発電所13カ所買収で合意、北部を中心に国有化広がる

(メキシコ、スペイン)

メキシコ発

2023年04月06日

メキシコ政府は4月4日、スペインの電力事業大手イベルドローラから13カ所の発電所を買収することで合意したと発表した。取得総額は60億ドルに及ぶが、国家インフラ基金(FONADIN)が出資する投資信託と銀行融資を活用し、歳出予算への負担はないとしている(大蔵公債省プレスリリース4月4日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

今回買収する発電所は、タマウリパス州、ヌエボレオン州、ドゥランゴ州、バハカリフォルニア州、シナロア州、サンルイスポトシ各州に所在する州の天然ガス・コンバインドサイクル発電所12カ所(うち8カ所は独立発電事業者:IPP、4カ所は民間発電事業者として運営、注1)、オアハカ州の風力発電所1カ所(IPP)であり、総発電能力は合計8,539メガワット(MW)に及ぶ。これは、イベルドローラがメキシコ国内に所有する全発電所の発電能力の70.2%を占める(「レフォルマ」紙4月5日)。イベルドローラは、風力発電所1カ所(103MW)を除けば、太陽光など再生可能エネルギーによる発電所の大半は売却せずに維持している。同社は今後もメキシコにおける新たな投資を通じて、メキシコの再生可能エネルギー開発におけるリーダーシップを再確認するだろうとしている(同社プレスリリース4月4日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

買収する発電所13カ所の運営は今後、電力庁(CFE)に委ねられることになる。これにより、国内全発電能力に占めるCFEのシェアは39%から55%に拡大し、最終的には、廃案となった電力再国有化に向けた憲法改正案(2021年10月4日記事2022年4月19日記事参照)の中でアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が目指した比率を達成することになる。特に、北東部のシェアが7%から45%へ、北部が20%から32%へ、北西部が52%から92%に拡大する。AMLO大統領は、4月4日付の自身のツイッターでイベルドローラのイグナシオ・サンチェス・ガラン社長との面談動画を掲載し、今回の買収は「第2の電力国有化」だと満足の意を表した。

イデオロギー重視で経済性や合理性に欠くとの批判も

大蔵公債省は、CFEのプレゼンス拡大により、電力供給を国が保証し、価格の安定につながるとしているが、識者からは経済性や合理性を欠く、イデオロギー重視の決断だという声が上がる。前政権まで推進してきた発電事業における民間事業者の活用は、国が発電所を建設する費用の節約につながるとともに、非効率な運営によってCFEが赤字経営に陥ることを回避する目的があったが、今回はこの流れに逆行するという批判だ(「レフォルマ」紙4月5日)。国有化した発電所のうち9カ所はIPP形態のもので、従来からCFEを顧客とするため、買収により従来のイベルドローラの顧客がCFEの新たな顧客に加わるわけではない。単に運営主体がCFEに変わるだけだが、発電所で働く労働者の労働条件がCFEの他の労働者と同様になるため、福利厚生や年金制度の変更で労働コストが大幅に増加するとみられる(注2)。実際、CFEの発電コストは固定費が響いて民間発電所よりも高く(添付資料図参照)、2023年3月時点で、同じ天然ガス・コンバインドサイクル発電所であっても、CFEの方が民間(IPP)よりも7.8%のコスト高になっている。

(注1)IPPは、1992年に公布された旧電力公共サービス法(LSPEE)に基づきCFEと売電契約している独立系発電事業者で、CFEの下請けとして発電し、発電した電力は全量CFEに売電される。「民間」発電事業者は、2014年に公布された電力産業法に基づき発電許認可を取得した民間事業者で、電力需要が1MWを超える大口需要家向けであればCFE以外への売電も可能。

(注2)民間発電事業者で働く民間労働者の場合、年金制度は確定拠出型の個人年金制度となっているが、CFEの場合は確定給付型の年金制度であり、男性の場合、勤続25年で55歳以上、あるいは勤続30年で年齢制限なしで退職でき、退職時の給与を年金として受給できる。前政権下では民間部門の年金制度に近づける改革が進められていたが、AMLO大統領の意向で2020年に前政権下で締結された労働協約の内容が破棄され、年金制度が旧制度に戻っている。

(中畑貴雄)

(メキシコ、スペイン)

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