EU、欧州グリーンボンド基準の設置規則案で暫定合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月08日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2月28日、サステナブル・ファイナンス戦略の一環として、欧州委員会が提案した「欧州グリーンボンド(EUGB)」基準の設定規則案(2021年7月9日記事参照)に関して、暫定合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、グリーンボンド(注1)を発行する際に、EUGBとして認定を受けるために必要な基準(EUGB基準)を設定するもの。EUは、温室効果ガス排出削減に向けて、グリーンボンド発行による民間投資の拡大を目指しており、規則案によりグリーンボンドの明確な基準を定めることで、グリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)を防ぎつつ、グリーンボンドの発行を拡大させたい考えだ。また、基準を早期に制定することで、EUGB基準を世界標準にしたい考えもあるとみられる。規則案は今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行され、施行から12カ月後に適用を開始する見込み。

今回合意した規則案は、現時点では合意テキストは公開されていないものの、欧州委の提案をおおむね維持するとみられる。規則案は、EUGB発行で調達した資金が持続可能な事業に割り当てられているかという債券自体の要件と、EUGBの登録制度や外部評価に関する要件からなる。EUGB調達資金は、タクソノミー規則(注2)で環境的に持続可能と分類される経済活動に原則として全額使用されなければならない。

EUGBの発行体は、企業活動全体のグリーン化に向けた移行計画が必要に

EU理事会と欧州議会はそれぞれの立場を基づき、最終合意で複数の条項を欧州委提案に追加した。まず、EUGBの調達資金に関して、タクソノミー規則の目的に合致するものの、技術的スクリーニング基準(TSC)と呼ばれる詳細な基準が定められていない経済活動に対して、暫定的に15%の割り当てを認める。これは、TSCを定める委任規則の制定が遅れており、タクソノミー規則における6つの環境目標のうち、現時点では2つの環境目標に関するTSCの委任規則(2021年4月22日記事2022年7月14日記事参照)しか適用が開始されていないことが背景にあるとみられる。

また、EUGBの発行体は自らの経済活動全体を持続可能なものにすべく、「移行計画」を策定し、EUGBによる調達資金がどのように「移行計画」に活用されるのかを開示することが求められる。これは、EUGBを発行することで持続可能性をアピールする発行体が、EUGBの調達資金の使途となる事業とは別に、持続可能でない経済活動を継続する場合に、EUGBがグリーンウォッシングに利用される恐れがあるためだ。

さらに、EUGBではない業界基準のグリーンボンドを発行する場合でも、発行体はEUGBの情報開示枠組みを利用することができる。EUGB認定要件が厳格なことから、現時点では認定を受けられないグリーンボンドの発行体がEUGBの情報開示枠組みを自主的に利用することで、EUGBに準じた持続可能性への貢献をアピールしたい場合に活用することが想定される。なお、欧州議会は当初、EUGBではないグリーンボンドの発行体に対しても、移行計画策定やEUGB情報開示枠組みの利用の義務付けを求めていたが、こちらは見送られた。

(注1)気候変動や環境に配慮した事業向けの資金調達として発行される債券。

(注2)詳細はジェトロの調査レポート「EUサステナブル・ファイナンス最新動向-タクソノミー規則を中心にPDFファイル(1.0MB)」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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