欧州委、グリーンボンドの基準設定規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年07月09日

欧州委員会は7月6日、サステナブル・ファイナンス戦略(2021年7月8日記事参照)とともに、「欧州グリーンボンド」(EUGB)の基準を設定する規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。気候変動や環境に配慮した事業向けの資金調達として発行される債券のグリーンボンドは、EU域内では過去5年で発行額が5倍に増加しているものの、債券の全発行額に占める割合は数パーセントと、その規模はまだ限定的だ。

欧州委は、2030年の温室効果ガス排出削減目標の達成に必要な投資の多くを民間投資で賄うとしており、グリーンボンドを有望な手段として見込んでいる。しかし現状では、グリーンボンド発行は全面的に業界基準に基づいており、十分な標準化や「気候変動や環境に配慮した事業」の共通した定義がないことから、グリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)のリスクが指摘されている。そこで、欧州委はEUGB基準を法的に設定することで、グリーンボンドに対する投資家の信頼を高めつつ、その発行を拡大させる狙いがある。また、2020年の全世界のグリーンボンド発行額のうち51%をEUが占めており、EUはグリーンボンド市場を牽引していることから、EUGB基準を早期に普及させることで、EUGB基準を世界標準にしたい考えだ。

タクソノミー規則を基準に外部評価で信頼性確保へ

EUGB規則案によると、民間と国・地方自治体を含むEU域内外の発行体は、EUGB基準を自主的に満たすことで、発行する債券をEUGBと名乗ることが認められる。EUGB基準には主に、債券発行で調達した資金が環境面で持続可能な事業に割り当てられているかという債券自体の要件と、調達資金の割り当ての透明性や外部評価に関する要件からなる。債券自体の要件には、資金の割り当て対象となる事業がタクソノミー規則(2020年6月30日記事2021年4月22日記事参照)が規定する6つ環境目的のうち少なくとも1つに実質的に貢献すると同時に、どの環境目的についても目的を著しく害さないことなどに合致することが必要となる。また、調達した資金は全額、こうした環境目的に見合った事業に割り当てることが求められ、いかなるコストの控除も認められない。

外部評価に関する要件として、債券のタクソノミー規則との整合性を含めたEUGB規則への準拠を確保するために、欧州証券市場監督局(ESMA)に登録した評価機関による外部評価が行われる。発行体は債券の発行前に、外部評価済みの具体的な調達目標や環境目標を記した「グーリンボンド・ファクトシート」を、発行後は、資金全額の割り当てが完了するまで割り当ての進捗状況に関する年間報告書を、完了後は、外部評価を再度受けるとともに、環境影響報告書をそれぞれ公表することが求められる。

規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される予定だ。なお、欧州委は復興基金の3割をグリーンボンド発行により調達することを既に明らかにしているが(2021年4月16日記事参照)、この規則案の適用開始までは、業界標準を基に、この規則案に最大限適合するかたちで枠組みを設定した上で、早ければ2021年後半にもグリーンボンドの発行を開始するとしている。

(吉沼啓介)

(EU)

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