USMCA労働権侵害調査で自動車内装部品メーカーの不正行為を特定、両国政府は改善策協議へ

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2023年03月22日

メキシコ政府は3月16日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づくコアウイラ州ピエドラス・ネグラス市にある自動車用内装部品メーカー、マヌファクトゥラスVU(以下、VU)に対する事実確認調査(2023年2月13日記事参照)が終了したと発表した(経済省・労働社会保障省プレスリリース3月16日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

調査の結果、VUの事業所内で労働者の結社の自由と団体交渉権を阻害する目的の企業側の深刻な不正行為と決定的関与があったことが特定されたとし、今後10日間の期限を設けて米国政府との間で労働権侵害に対する改善策について協議し、合意形成を目指すとしている。VUに対する事実確認調査は、USMCAが定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM、スペイン語ではMLRR)」に基づき、米国通商代表部(USTR)が要請していたもの。メキシコ政府は3月17日までに計7件の労働侵害事実確認要請をUSTRから受託し、うち今回の案件で計6件目労働侵害事実確認調査が終了したことになる。

VUにおいては、2022年8月31日にメキシコ政府の監視の下で行われた労働協約(CCT)締結代表権の獲得投票(注1)で、提訴したメキシコ労働総同盟(Liga Sindical Obrera Mexicana:LSOM)が186対101の賛成多数で勝利したため、いったんは問題が解決したとみられていた。しかし、その後も企業側がメキシコ労働者総連合(CTM)傘下の既存の組合に便宜を図り、LSOMとの労働協約の交渉開始を遅らせていたことが、USTRからの2度目の事実確認要請の発端となった。今後、どのような改善策が両国間で合意されるかは不明だが、いずれにせよLSOMとVUの間でCCT締結が進むものとみられる。

7番目の案件も新興組合は代表権獲得プロセスを巡る労働権侵害

メキシコ政府は3月17日、米国ミシガン州に本社を持つ自動車部品メーカーのユニーク・ファブリケーティング(以下、UF)のケレタロ工場における労働権侵害を巡る米国政府からの事実確認要請(2023年3月8日記事参照)を正式に受諾し、労働権侵害の有無に関する調査を開始したことを米国政府に通知したと発表した(経済省・労働社会保障省プレスリリース3月17日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。事実確認要請から45日以内にメキシコ政府が調査結果を米国政府に報告することになる。

UFのケレタロ工場は、従来からメキシコ北東部の工業都市モンテレイを本拠とするメキシコ独立サンディカリスム自治連合(FASIM)傘下の労働組合とCCTを締結していたが、2020年以降、ケレタロの新興労組「組合変革(Transformación Sindical)」がUFの労働者の真の声を代表する組合になるための活動を開始していたところ、企業側からさまざまな妨害行為があったと主張している(主要各紙3月15日)。2019年5月1日以前に締結されたCCTの適法化(注2)の期限が原則2023年5月1日に迫っているため(2023年3月9日記事参照)、FASIM傘下の組合は3月16日に適法化のための承認投票を行ったが、賛成100、反対100、棄権2の結果となり、適法化に必要な過半数の賛成を得られなかった(主要各紙3月17日)。適法化の再投票は可能だが、メキシコ政府の監視の下で、既存の組合と「組合変革」との間でCCT締結代表権の獲得に向けた投票プロセスが先に行われる可能性が高い。

(注1)2019年5月1日公布の連邦労働法改正に基づき新設された第390-Bis条で、労働協約を締結する組合が労働者の声を真に代表すること(最低でも職場の30%以上の労働者の署名が必要)を確認する組合間の投票プロセスが定められている(2019年5月7日記事参照)。

(注2)雇用主が労働組合との間で2019年5月1日以前に締結した既存の労働協約の内容を、職場の労働者の過半数の賛成を経て再承認するプロセス。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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