サウジアラビア・イラン国交正常化、イスラエルのネタニヤフ政権に逆風
(イスラエル、サウジアラビア、イラン、米国、中国)
テルアビブ発
2023年03月22日
3月10日に発表されたサウジアラビアとイランの国交正常化合意(2023年3月13日記事、2023年3月13日記事参照)を受けて、イスラエル国内では、ネタニヤフ政権に対する批判が高まっている。
イスラエル現地紙(3月10日付「タイムズ・オブ・イスラエル」)によると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相のイタリア訪問に同行したネタニヤフ政権の高官は「今回の合意は、米国のバイデン政権とイスラエルのラピッド前政権の弱さによるものだ」と述べた。それに対し、2022年12月にネタニヤフ首相が政権を取り戻すまで政権を担ったナフタリ・ベネット元首相とヤイル・ラピッド前首相は「サウジアラビアとイランの対話は、前回のネタニヤフ政権時代に始まっており、ネタニヤフ陣営の(前政権に対する)批判は誤りだ」と主張した。また、ネタニヤフ政権が司法制度改革などの内政問題に時間を取られ、外交努力が不十分だったことの影響が大きいとも言及した。
さらに、3月10日付「エルサレム・ポスト」紙によると、ラピッド前首相は「今回の合意は、イランに対して築き始めた防御壁の崩壊を意味するもので、イスラエル政府の外交政策の完全かつ危険な失敗だ」として強く批判した。
イスラエル国内の反応に注目すると、史上最も右寄りとされるネタニヤフ政権の司法改革による政治的混乱が今回の国交再開を防げなかった一因との見方があるが、より大きな要因となったのは、これまで中東地域に大きな影響力を持ってきた米国の関与の低下という論調もある(3月12日付「ハアレツ」紙)。中東と距離を取りつつあるバイデン米政権の姿勢を見たサウジアラビアがその空白に入り込んできた中国の仲介に乗ったという構図だ。今回の国交正常化によって、ネタニヤフ政権の重要な外交政策テーマの、イランの脅威に対する他のアラブ諸国との連携強化による対応や、サウジアラビアとの国交正常化についても、行き詰まりを見せるのではないかという見方もある(3月12日付「ハアレツ」紙)。
足元では、2023年明けから続く司法改革に反対するデモ活動が大規模化・過激化しており、それに伴って一部企業は国内からの資金引き上げを表明、また、ムーディーズが信用格付けの格下げ警告も出すなど、経済面にも影響が見えている。サウジアラビアとイランの国交正常化は、ネタニヤフ政権に対する批判の新たな火種となり、ネタニヤフ政権が受けるダメージが大きくなることが予想される。
(太田敏正)
(イスラエル、サウジアラビア、イラン、米国、中国)
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