欧州産業界、欧州委のネットゼロ産業法案に辛口評価も少なくなく

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月22日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は3月16日(注)、同日発表された欧州委員会のネットゼロ産業法案(2023年3月20日記事参照)について、行政手続きを軽減する方針を歓迎しつつも、支援対象が限定的なことが欧州のネットゼロ(気候中立)化に当たって障害となる恐れがあると懸念を示した。また、欧州産業のレジリエンス強化には原材料などの主要供給国と緊密な関係の構築が必要で、法案が保護主義的な要素を含むことは避けるべきとした(ビジネスヨーロッパのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

また、複数の産業団体からは、米国のインフレ削減法(IRA)を念頭に置き、EUはより包括的な産業政策が必要だとの声があがった。欧州化学工業連盟(Cefic)は、同法案はIRAに対抗できるものではなく、「欧州の競争力強化に向けたゲームチェンジャーとなる可能性は非常に低い」と評価した。企業の設備投資に焦点が当たる一方で、事業費の削減につながるインセンティブはなく、エネルギー集約型産業の脱炭素化や循環型経済への移行への支援もないと指摘。「バリューチェーン間の相互関連性を認める」「適切な価格でのエネルギーや原材料の供給の保証」など包括的な産業政策の実現を求めた(Ceficのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

欧州自動車部品工業会(CLEPA)も、同法案や同日発表された重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)を総体的かつ長期的な産業戦略に向けた「最初の1歩」とし、そうした戦略の策定には政策の一貫性、行政手続きの軽減に加えて、特定の技術のみにこだわらないことが必要だと述べた(CLEPAのプレスリリース)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

欧州機械・電気・電子・金属加工産業連盟(ORGALIM)は、同法案には、EUの公的部門による市場への関与を著しく深める方向へと転換させる施策が含まれると指摘し、こうした取り組み方にはらむリスクのバランスを取り、競争力を維持しながら、気候中立を実現するためにはより包括的なアプローチが求められるとした。例えば、エネルギー使用の効率化、デジタル化や付加製造技術などの導入の加速や、ネットゼロ技術に限らず企業の負担の軽減を図ることが必要だとした(ORGALIMのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

さらに、戦略的ネットゼロ技術とされた技術に関連する産業団体からも、不満の声が上がった。欧州自動車工業会(ACEA)は、特に公的な資金支援の規模や実施スピードなど、提案された施策の展開について不確実な点があるとした(ACEAのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州風力協会も、鍵となる資金支援メカニズムが明らかになっていないことや、既存の生産体制の拡充より技術開発に過度に焦点が当てられていることに苦言を呈した(欧州風力協会のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

水素銀行は歓迎されるも、アンモニアへの支援なしに不満の声も

欧州委が同時に提案した欧州水素銀行(2023年3月22日記事参照)については、ハイドロジェン・ヨーロッパ(Hydrogen Europe)は、ネットゼロ産業関連施策の「完璧な仕上げ」と歓迎したほか(Hydrogen Europeのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、欧州肥料工業会も「良い方向に進み始めた」と評価。しかし、ネットゼロ産業法案では、水素生産での使用や、水素のキャリアとしての可能性もあるアンモニアに対する支援がなく、アンモニアを扱う肥料業界にとってインセンティブとならないと遺憾の意を示した。IRAが水素生産に対して直接的な支援を行うのに対して、同法案では「生産技術」の開発が主たる支援対象となっていると指摘し、ネットゼロ関連の投資を惹起(じゃっき)する機会を逸したとした(欧州肥料工業会のプレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。

(注)各産業団体の発表は、3月17日付だったACEAとCeficを除いて、全て3月16日付。

(滝澤祥子)

(EU)

ビジネス短信 06abd156f0301926