欧州委、水素生産を支援する欧州水素銀行の構想を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月22日

欧州委員会は3月16日、EUが戦略的に重視するグリーン水素を中心とした水素生産の拡大に向け、EU域内外の水素バリューチェーンへの民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」構想に関する政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同政策文書は、欧州委が同日発表した、ネットゼロ産業規則案と合わせて公表された(2023年3月20日記事参照)。欧州水素銀行は、初期段階にあるグリーン水素市場の本格的な形成に向けて、現状では割高なグリーン水素と既存の天然ガスなどの化石燃料由来の水素との生産コストの差額を補填(ほてん)することで、大部分が計画段階にとどまっているグリーン水素生産への投資を後押し、グリーン水素の普及を目指す。

EUは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、天然ガスなどのロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)を決定。その一環として、電化が難しい産業における天然ガスの代替燃料としての活用などを念頭に、域内生産1,000万トンに加えて、域外からの輸入を1,000万トンとするグリーン水素に関する2030年目標を掲げている。欧州委は、2023年2月に発表したグリーン技術の製造業を支援する「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)において、「欧州水素銀行」構想の一部を明らかにしていた。

今回発表された政策文書によると、「欧州水素銀行」構想は、(1)域内生産の支援、(2)域内への輸入を前提とした域外生産の支援、(3)水素取引の透明性の確保と域内外での加盟国・事業者との調整、(4)既存の財政支援策の調整の4つの柱からなり、2023年末までに実施を開始する予定としている。

構想の主軸となる(1)において、欧州水素銀行は、EU予算を活用したパイロット事業として審議段階にあるグリーン水素の定義(2023年2月15日記事参照)に基づく、グリーン水素生産の支援に向けた競争入札を、2023年秋をめどに実施する。このパイロット事業では、入札したグリーン水素生産事業者のうち、コストが低い事業者から順に落札者を決定する。落札者は、生産するグリーン水素1キロにつき、固定額のプレミアム(奨励金)を10年間にわたり得ることができる。予算規模は8億ユーロとしており、詳細は今夏に発表する予定だ。政策文書は、この競争入札プラットフォームについて、加盟国予算に基づく支援策においても利用することを想定。同一のプラットフォームを利用することで、初期段階にある水素市場の形成において、プレミアム額など支援内容の異なる加盟国ごとで市場が分断することを防げるとしている。一方で(2)については、割り当てるEU予算の財源を含め、生産コストの差額を補填する域内での支援策と同様の施策を検討していると記すにとどまった。

(3)については、欧州水素銀行は、水素の流通、決済、価格などの情報を包括的に提供することで、市場の透明性を確保するとともに、水素生産に関する覚書の締結などに向けて、域内外で、加盟国や事業者との調整を実施する。また、(4)については、支援の効果を最大化すべく、EUレベルおよび加盟国レベルで実施されている様々な財政支援策の調整を実施する。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 67609a7d67e2c0ae