西側のロシア撤退後の産業の質・生産性が課題、ジェトロがウェビナー

(ロシア、日本)

欧州ロシアCIS課

2023年03月14日

ジェトロは3月2日、ウェビナー「侵攻1年を経たロシアの経済・ビジネス環境の現状や展望」を解説した。ロシア経済はウクライナ侵攻を開始した1年前の予測に比べると、落ち込みの度合いは比較的小さい結果となった。撤退が完了した在ロシア外資系企業も意外と少なく、多くの企業はさまざまな方法でロシアでのビジネスの将来的な継続を模索している。

ジェトロ・モスクワ事務所の梅津哲也所長は、ロシア経済と貿易の状況、在ロシア外資系企業の動き、ビジネス上のリスクについて解説した。西側諸国の対ロシア制裁により、品薄・物価急騰が局所的・一時的に発生した。物価は2022年4月以降安定し、同年のロシア経済は当初の予測よりも小さい落ち込みとなった(2022年5月23日記事2023年3月6日記事参照)。2023年のロシア経済については、IMFが見通しを上方修正している(2023年2月1日記事参照)。その一方で、ロシア経済はグローバル経済から切り離されており、侵攻以前に予測されていたほどの成長は見込めない。

2022年のロシアの貿易を相手国側統計でみると、ドイツから主に自動車など輸送用機器を含む機械類の輸入が減少した。他方で、中国からは乗用車や建設機械の輸入が増加した。トルコからは機械、食品、繊維製品、化学品など幅広い品目の輸入が増加し、特にモニター、パソコンなどの電気・電子機器の輸入は前年と比べて100倍以上に増えた。並行輸入やサプライチェーンの再構築もこれら国々からの輸入増に寄与していると見解を述べた。

在ロシア日系企業の今後半年から1年後の事業見通しでは、7割が維持・縮小と回答した(2023年2月22日記事参照)。欧米企業も事業譲渡や、将来の買い戻し条項付きでの売却など巧みに存続の方法を模索している。日系企業と比べて撤退の損失が大きいことや、事業売却の難航していることが背景にある。

今後のロシア経済・ビジネス環境を見るポイントとして、梅津所長は「カントリーリスクの判断基準の根本的な変化」「ロシア経済を支える資源の牽引力が不透明」「輸入代替の効果、西側企業の撤退後、産業の質・レベルを維持できるか」を挙げた。

ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所の島田憲成所長は、日系以外の外資系企業の動向について解説した。欧米企業は全体的には撤退プロセスは着実に進んでいるが、政府の許認可取得に時間を要するケースが多いと説明した。他方、食品や製薬、家庭用化学品など一部の分野ではロシア事業が継続している。

自動車産業では、西側メーカーの撤退で中国車の存在感が高まっている。ロシアの自動車メーカーは中国企業と提携して電気自動車(EV)の生産も進める方針だ。島田所長は、制裁下のロシアで進む国産化政策の不安材料として、西側諸国の新規投資停止によって生産性を維持できるか、また、自動車産業の国産化が中国一辺倒で必ずしも中身が伴っていないという点などを挙げた。

(小野塚信)

(ロシア、日本)

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