欧州投資銀行、スケールアップを目指すテック企業向け37億ユーロ超のファンドを立ち上げ

(EU、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ベルギー)

ブリュッセル発

2023年02月20日

欧州投資銀行(EIB)グループは2月13日、EU加盟5カ国と共同で、スケールアップを目指す欧州のハイテク分野のスタートアップ企業向けファンド「欧州テック・チャンピオン・イニシアチブ(ETCI)」を立ち上げたと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ETCIは、企業に直接投資するものではなく、成長が期待される欧州のハイテク企業に投資する大規模ベンチャーキャピタル(VC)ファンドを対象に投資するファンド・オブ・ファンドだ。運営は、EIBグループ傘下の欧州投資基金が行う。スペイン(10億ユーロ)、ドイツ(10億ユーロ)、フランス(10億ユーロ)、イタリア(1億5,000万ユーロ)、ベルギー(1億ユーロ)およびEIBグループ(5億ユーロ)が合計で37億5,000万ユーロを出資することを約束しており、今後、他の加盟国からの出資によりファンドの規模は拡大する予定としている。

ETCIは、2022年2月に当時のEU議長国フランスが提唱し、参加表明した16の加盟国(注)からの100億ユーロ規模の出資により、欧州のハイテク分野のスタートアップ企業の成長に必要不可欠な資金を提供する、大規模VCファンドの立ち上げ構想である「汎欧州スケールアップ・イニシアチブ」の中核政策だ。欧州では、ハイテク分野のスタートアップ企業による、世界レベルでの事業拡大に向けた資金調達が難しいことが指摘されており、成長が期待されるスタートアップ企業が米国など域外へと移転していることが問題視されてきた。ETCIは、こうした課題に対応すべく設立された、スタートアップから新規株式上場(IPO)などを目指す企業に特化した欧州初のファンド・オブ・ファンドだ。欧州に拠点を残しつつ、世界をリードすべく、5,000万ユーロ以上の資金調達を必要とするハイテク分野のスタートアップ企業の支援を狙う。

EUでは近年、域内企業の国際競争力の強化が課題となっており、2030年までに域内のユニコーン企業(企業価値10億ドルを超えるスタートアップ企業)を250社に倍増させること(2021年3月21日記事参照)を目標に掲げている。2023年2月には、米国のインフレ削減法の成立を受けて、域内のグリーン分野の製造業へ支援策である「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)を発表するなど、域内企業の競争力の衰退に対する危機感が強い。こうした中で、フランスのブリュノ・ル・メール経済・財務・産業およびデジタル主権相は、ETCIに関して、EUと加盟国が共同することで、経済や産業におけるEUの主権強化ができることを示す好例だとした。また、ドイツのクリスティアン・リントナー財務相も、ETCIはスタートアップ企業の資金調達の課題を解消し、欧州の戦略的自律性を強化するものだと述べるなど、参加各国はETCIに強い期待を寄せている。

(注)フランス、デンマーク、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポルトガル、ルーマニア、フィンランド、スウェーデン。

(吉沼啓介)

(EU、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ベルギー)

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