欧州委、グリーン水素の定義に関する委任法案を発表、2026年末までの猶予期間を設定

(EU)

ブリュッセル発

2022年05月27日

欧州委員会は5月20日、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの目標値を定める再生可能エネルギー指令に基づく委任規則案を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回発表された2つの委任規則案のうち、特に注目を集めているのは、グリーン水素などを念頭に、バイオマスといった生物起源以外の再生可能なエネルギーに由来する液体・ガス燃料の定義を定めた委任規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。欧州委は、欧州グリーン・ディールの一環として、電化の難しい分野の脱炭素化を実現するためのエネルギーとしてグリーン水素を重視している。さらにロシアのウクライナ侵攻を受けて、天然ガスなどロシア産エネルギーからの脱却を急務とする中で、「リパワーEU」(2022年5月20日記事参照)において、2030年までにグリーン水素の域内生産量と輸入量の目標をそれぞれ1,000万トンに、産業部門で消費される水素に占めるグリーン水素の比率目標も75%にするなど、従来の目標値から大幅に引き上げている。

一方で欧州委は、グリーン水素の生産には風力や太陽光など再生可能エネルギーに由来する電力(再エネ電力)が必要であることから、再エネ電力が不足している現状を踏まえて、既存施設で生産された再エネ電力をグリーン水素の生産拡大に充てた場合、その他の分野への再エネ電力の供給が減るだけでなく、化石燃料に由来する電力生産をむしろ増やす結果になることを危惧。そこで委任規則案では、グリーン水素とみなすためには、グリーン水素の生産のために追加的に設置された発電施設から再エネ電力の供給を受けること(追加性)を原則とする。グリーン水素の生産に利用できる発電施設は、グリーン水素の生産施設の稼働より36カ月より前に稼働を開始していない新設施設に限定される。

また委任規則案では、グリーン水素が再エネ電力により生産されていることを認定するために、水素の生産と、利用される再エネ電力の生産との間に、地理的および時間的な相関性があることを求めている。相関性が認められるのは、水素の生産施設が再エネ発電施設に直接接続している場合のほか、グリッドから電力供給を受ける場合は、水素の生産施設が再エネ電力比率9割以上である入札ゾーン(地理的な対象領域)内にある場合や、特定の条件での再エネ電力の購入契約に基づく供給である場合に限定される。また、電力購入契約に基づきグリッドから電力供給を受ける場合、水素と再エネ電力が同一の1時間以内に生産されることが求められる。さらに、再エネ電力の施設は稼働や設備投資において補助金を受給していないことも条件となる。

ただし、グリーン水素の生産拡大を後押しするために、猶予期間が設定される。電力購入契約に基づきグリッドから電力供給を受ける場合には、2026年12月末までは、既存の発電施設から再エネ電力の供給を受ける場合や補助金を受給している場合、また時間的な相関性に関しては同一の1カ月以内に生産された場合でも、グリーン水素と認められる。

欧州委は今後、パブリック・コンサルテーション(公開諮問)を6月17日まで実施した上で、委任規則案を正式に提案し、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が2カ月以内に否決しなければ、委任規則案は施行される。

(吉沼啓介)

(EU)

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