欧州委のグリーン・ディール産業計画、水素重視に期待高まる産業界

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月07日

欧州の水素利用を推進する産業団体ハイドロジェン・ヨーロッパ(Hydrogen Europe)は2月1日、欧州委員会が同日発表したグリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)について、水素を2050年までの気候中立達成へ向けた「戦略的技術」と明確に示したと歓迎した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、欧州委がEU国家補助規制を緩和し、2025年までの時限措置ではあるが、加盟国に特定の産業分野への補助金を認めるとした「暫定危機・移行枠組み」(2023年2月3日記事参照)について、グリーン水素の生産・貯蔵・産業利用と電解槽や関連する重要な原材料の生産に直接的な支援が行われると期待を示した。

水素については、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)も同日付声明で、米国のインフレ削減法(2022年10月6日付地域・分析レポート)により、米国のグリーン水素の生産コストが1キロ当たり3~4ドルの大幅な削減となるとの推計を示し、欧州と米国のグリーンスチール(注1)の生産コストの差を最大60%拡大させる可能性があると指摘(EUROFERのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この産業計画はEUが掲げる気候目標達成や循環型経済への移行へ向けて必要不可欠な産業のバリューチェーン全体に焦点を当てたものとすべきだとした。また、欧州委に対して、化石燃料フリー(注2)のエネルギーや水素を必要とする鉄鋼部門などへの十分な供給の実現や、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留・有効利用のための具体案の策定などへ向けて、産業界と協力するように呼びかけた。

国家補助規制の緩和に伴う「単一市場のゆがみ」を懸念

小売・卸売業界団体ユーロ・コマースは同日付の声明で、同計画は同業界のグリーン化・デジタル化への支援となると期待を示すと同時に、EUの国家補助規制の緩和による加盟国間での補助金競争への懸念を示した(ユーロ・コマースのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ユーロ・コマースは、同業界は特に再生可能エネルギーの活用や、店舗や倉庫のエネルギー効率の向上などへの投資を行うことで、EUの気候目標やエネルギー移行に貢献できると強調。しかし、EU企業の競争力向上に向けて、単一市場の安定が「最強の戦略」であり続けるべきで、規制緩和により加盟国間で補助金を巡って不協和音が起き、単一市場がゆがめられる懸念があるとした。また、同業界のグリーン化・デジタル化へ向けて、2030年までに現在の約2倍近くとなる6,000億ユーロ規模の投資が必要となるとし、EUと加盟国が投資を支援する政策枠組みを策定することを求めた。

(注1)製造工程での二酸化炭素(CO2)排出のない、またはほとんどない方法で製造された鉄。

(注2)化石燃料を使用せずに製造された製品やサービスのこと。

(滝澤祥子)

(EU)

ビジネス短信 850d9f3d40583b2b