米国、石油戦略備蓄からの売却中止と買い戻しを決定

(米国)

ニューヨーク発

2023年01月04日

米国で12月29日に成立した2023年度(2022年10月1日~2023年9月30日)本予算(2022年12月26日記事参照)では、予定されていた石油戦略備蓄(SPR)からの市場売却を中止する条項が盛り込まれた。バイデン政権は高騰する原油価格を引き下げるために、石油のSPRからの市場放出を度々実施しており、これまでの総放出量は約2億6,000万バレルに達している(2021年11月24日記事2022年3月2日記事4月1日記事参照)。

直近の12月第4週の米WTI原油先物価格は1バレル(約159リットル)当たり約77ドルと、ピークだった2022年6月の120ドル超から3分の1強下落している。一方で、SPRの直近(12月23日時点)の総在庫量は約3億7,513万バレルで、1983年11月以来の水準まで低下しており、有事の際のSPR在庫量を懸念する声も上がっていた(2022年10月20日記事参照)。

2018年超党派予算法では、2022~2027年度にSPRから合計で1億バレルの市場売却を義務付けていたが、今回の条項ではこれを削除するとともに、同期間に逆に3,000万バレルの原油を備蓄するとの文言が加えられており、これによりSPRに1億3,000万バレルの原油が純増することとなる。同法では売却中止の理由について「SPR制度への技術的負担を軽減する」ためとしているが、SPRの在庫水準を高めるとともに、SPR買い戻しをできる限り避けることによって、原油価格の上昇を防ぐ狙いがあるとみられる。

バイデン政権は2022年10月時点で、原油価格が1バレル当たり67~72ドルの価格水準になったところでの買い戻しを企図しており、最初の買い戻しは2024年度ないし2025年度になるとの見通しを示していた。だが、想定より速いペースで原油価格の下落が進み、2022年12月第2週に原油価格は約73ドルの水準にまで下がった。

これを踏まえて、エネルギー省は12月16日、2023年2月の受け渡し分として最大300万バレルをSPRとして買い戻すと発表している。消費者に身近なガソリン平均小売価格も1月3日時点で1ガロン(約3.8リットル)約3.2ドルと、6月ピーク時の5ドル超から4割下落しており、消費者のガソリン価格へのマインドが改善しているタイミングで買い戻しを決めたかたちだ。エネルギー省はこの決定について「(放出時の)平均売却価格の96ドルを下回る水準で買い戻せれば、エネルギー安全保障の強化だけでなく、納税者にとって有利にもなる」としている。

(宮野慶太)

(米国)

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