ジェトロ、在北米日系企業向けに人権尊重ガイドライン実装ウェビナー開催

(米国)

ニューヨーク発

2022年12月16日

ジェトロは1212日(日本時間13日)、経済産業省と共催で在北米日系企業向けに、日本政府が9月に公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(以下、ガイドライン)」の実装ウェビナーを開催した。ウェビナーでは、ガイドラインに沿って人権尊重のための実務をどう進めていけばよいかを解説した。ガイドラインを解説したセミナー(注1)は日本国内でも実施しており(20221014日記事参照)、今回は米国が執行を強化する人権関連の規制についても解説した。

ウェビナーではまず、経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室室長補佐の塚田智宏氏が、ガイドライン策定の背景と概要を説明した。塚田氏は、国連人権理事会で2011年にビジネスと人権に関する指導原則が全会一致で支持され、企業にも人権尊重の責任を求める動きが加速していることに言及。日本政府は、2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し、企業による人権デューディリジェンス(DD)の実施に期待を表明した後、2021年に実施したアンケート調査においてガイドライン整備を求める声が多数だったことなどを受け、ガイドライン策定に至ったことを説明。ガイドラインは、国連指導原則をはじめとする国際基準にのっとり、かつ企業にとって分かりやすい内容にしたと紹介した。人権DDの対象範囲は直接の取引先だけでなく、広範なビジネス上の関係先が含まれる一方、自社が取引先などに対して持つ影響力の度合いはさまざまな要因によって異なると指摘した。

続いて、EY新日本有限責任監査法人シニアマネージャーの名越正貴氏が、ガイドラインを企業が実践する上でのポイントを解説した。名越氏は、人権への負の影響に対応する際の3つのポイントとして、(1)人権リスクを幅広く把握すること、(2)影響を受ける可能性のあるステークホルダーに焦点を当てること、(3)対応に優先度をつける必要がある場合には、最も深刻な人権リスクに優先的に対応することを挙げた。人権リスクを把握するためには、自社の事業活動に加えてグローバル・バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)してどこにリスクがあるかを洗い出すことが重要である旨を説明した。その上で、優先的に対処すべき事業領域を特定したうえで、その領域におけるリスクの低減活動に着手し、自社に関係するステークホルダーとの対話を重ねながらその取り組みを継続することを推奨した。

最後に、西村あさひ法律事務所弁護士の根本拓氏が、人権侵害に関連する米国規制への対応などについて解説した。根本氏は、米国で急速に発展するグローバル・バリューチェーン上の人権侵害に対処するためのさまざまな規制に対処することの重要性が高まっていると強調。それら規制は一過性のものではなく、今後さらなる政策の展開が予測されるが、規制への対応ではガイドラインやそれが基礎とする国際規範にのっとった取り組みが有効と語った。具体的な規制として輸出入規制と経済制裁を示し、輸入規制では、外国で強制労働により生産された産品の輸入を禁止する関税法307条に基づく執行の強化や、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止するウイグル強制労働防止法(202285日付地域・分析レポート参照)を挙げた。輸出規制に関しては、デュアルユース品目の輸出管理に触れ、再輸出の場合にも規制の対象となり得る点に注意を促した。その上で、米国政府は各種規制への対応に役立ち得るさまざまな資料やツールを作成・公表しており、ガイドラインに基づく人権DDの具体的実践にも有用だと紹介した上で、それらを具体的にどのような文脈で活用し得るかについて概観した(注2)。

(注11013日に実施したウェビナーは、ジェトロウェブサイトの「サプライチェーンと人権」特集ページから視聴可能。

(注2)各種資料の内容などについては、ジェトロの調査レポート「グローバル・バリューチェーン上の人権侵害に関連する米国規制と人権デューディリジェンスによる実務的対応」を参照。

(甲斐野裕之)

(米国)

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