人権ガイドラインを踏まえたデューディリジェンス法制化対応についてセミナー開催

(EU)

ブリュッセル発

2022年12月09日

ジェトロは12月7日、経済産業省と共催で、在欧州の日系企業を対象に、日本政府が発表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(以下、ガイドライン)」を踏まえて企業に求められる対応について解説するオンラインセミナーを開催した。ガイドラインを解説したセミナーは日本国内でも実施しており(2022年10月14日記事参照、注)、今回は人権関連の法制化が進む欧州において、どのように人権尊重のための実務を進めていけばよいかに焦点を当てている。

セミナーではまず、経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室室長補佐の塚田智宏氏が、ガイドライン策定の背景と概要を紹介した。塚田氏は、ガイドラインのポイントの1つとして国際スタンダードに則した内容であることを挙げ、欧州でも法規制が進んでいる中で、日本としても欧州諸国を含む多くの国が参照する国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や、OECD多国籍企業行動指針などをきちんと踏まえることで企業の予見可能性を担保していくというガイドラインのコンセプトを説明した。

次に、EY新日本有限責任監査法人シニアマネージャーの名越正貴氏が、ガイドラインを企業が実践する上でのポイントを解説した。名越氏は、人権リスクへの企業としての対応を考える前提として、まずは人権リスクの洗い出しを広く行うことが重要だと指摘。そのためには、自社だけでなくバリューチェーン全体をグローバルに把握し点検する必要があるとした。もちろん、全てに対応するのは難しいため、優先的に対処すべき事業領域を特定して、それについてリスクの低減活動に着手し、自社に関係するステークホルダーとの対話を重ねながらその取り組みを継続することが重要だと述べた。

最後に、西村あさひ法律事務所フランクフルトオフィスの加藤由美子氏が、欧州における人権デューディリジェンス(DD)に関する法制化の動きとその実務について解説した。まず、2010年代以降、急速に進む海外での人権関連の法制化は、(1)人権リスクへの対応などに関する開示・報告を義務付けるもの、(2)人権DDの実施と、その開示・報告を義務付けるもの、(3)強制労働により製造された産品などに対する輸出入規制を課すもの、の3つに類型化できると現状について整理した。その中で、欧州は人権DDの実施や開示、輸入規制などのルール作りに積極的であり、人権と環境を合わせた制度化を試みる傾向があると説明した。また加藤氏は、欧州で法制化が進み、それを歓迎する声もある一方で、多くの課題も聞かれていると指摘。課題として、義務の曖昧性や人権DDの範囲が広範であること、人権に対する負の影響による被害者の環境改善にこうした法制化が実際に効果を示しているか懸念の声が上がっていることなどを挙げ、各国の形式的な法令順守だけでなく、国連指導原則などの基本に戻って企業が人権を尊重した取組を行っていくことの重要性を指摘した。

(注)10月13日に実施したオンラインセミナーは、ジェトロウェブサイトの「サプライチェーンと人権」特集ページから視聴可能。

(安田啓)

(EU)

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