紛争鉱物と児童労働に関するデューディリジェンス報告義務が2023年1月から適用開始

(スイス)

ジュネーブ発

2022年12月28日

スイスの企業に対する紛争鉱物と児童労働に関するデューディリジェンス報告義務が2023年1月1日から適用開始となる。スイスでは、2020年11月の国民投票(2020年12月7日記事参照)で否決されたイニシアチブに対する間接的対案が議会で可決され、紛争鉱物と児童労働に関するデューディリジェンスと透明性に係る条例外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが2022年1月に施行された。1年の移行期間を経て、2023年から報告義務の適用が開始され、初回の報告は2022年分となる。

同条例は、スイスに拠点を構える企業・個人など(注1)で、サプライチェーンを通じて直接的・間接的に、紛争地域やリスクの高い地域を起源とする鉱物や金属を所有し、その出荷・処理・最終製品への加工に関与している、または、児童労働を利用して製造・提供されたと疑うに足る合理的な根拠がある製品・サービスを提供している場合に対象となる。主なポイントは以下のとおり。

紛争鉱物については対象となる鉱物・金属は同条例付属書1で規定されており、品目ごとの規定の輸入・加工量を下回る場合はデューディリジェンス報告義務が免除される。児童労働については、以下のうち2つの基準について2年連続で下回る中小企業は、デューディリジェンス報告義務が免除される。

  1. 総資産額2,000万スイス・フラン(約28億6,000万円、CHF、1CHF=約143円))
  2. 年間売上高4,000万CHF
  3. 年間平均従業員(フルタイム相当)数250人

また、児童労働に関するリスクが低い事業者(注2)もデューディリジェンス報告義務が免除される。ただし、児童労働によって生産・提供された製品・サービスを提供していることが明らかな場合、報告義務は免除とならない。

付属書2で規定されるOECD、ILOなどの指針や既存の規制(EU紛争鉱物資源規則など)に沿った対応をしている企業については、本条例の報告義務は免除される。

報告義務を負う事業者は、本条例に規定される要件を満たす紛争鉱物と児童労働に関するサプライチェーン方針の策定、サプライチェーンのトレーサビリティーシステムの構築を行う必要がある。報告書は毎年、スイスの公用語または英語で記載することとされる。また、最高経営責任者は同報告書を会計年度終了後6カ月以内にオンラインで公表し、その後少なくとも10年間、一般にアクセス可能な状態としておかなければならない。

また、本条例の施行と同時に刑法が改正されており、虚偽の情報提供や報告不履行、報告書の保持・作成義務の不順守を故意に行った場合は10万CHF以下、過失で行った場合は5万CHF以下の罰金が科される。

なお、2022年11月にEUでスイスの規制よりも厳しい内容となる企業持続可能性報告指令案が最終承認(2022年12月1日記事参照)されていることから、スイス連邦参事会(内閣)は、スイスの規制をEU指令に適応させる方向で検討しており、遅くとも2024年7月までに素案を作成し、スイス経済への影響を分析するとしている。また、2022年2月に欧州委員会が発表した企業持続可能性デューディリジェンス指令案(2022年2月28日記事参照)については、まだEUで審議中であるものの、スイスの競争上の不利益を回避するために、連邦参事会は2023年末までに同指令案の影響を分析するとしている。

(注1)海外企業の子会社のスイス企業は、当該海外法人が同等の報告書を作成する場合、個別の報告書作成は必要とされない。

(注2)ユニセフの「職場における子どもの権利指標外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」において、デューディリジェンス対応が「標準」と評価されている国で事業を行う企業。

(深谷薫、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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