国民投票で多国籍企業の責任に関するイニシアチブ否決

(スイス)

ジュネーブ発

2020年12月07日

スイスで11月29日、「責任ある企業」と「軍需企業に対する融資禁止」に関する2つのイニシアチブについて国民投票が行われ、両方とも否決された。前者は50.73%の賛成票を得たが、可決に必要な過半数の州の賛成を得られなかった(注1)。後者は57.45%が反対した。

1つ目の国民投票は、スイスに拠点を置く多国籍企業に対し、当該企業のみならず子会社やサプライヤーがスイス国外で人権や環境の国際基準に反する行動を取った場合に、被害者が当該企業のスイス拠点を同国の裁判所に訴えられるようにすることを求めていた。さらに、サプライチェーンに含まれる全てのサプライヤーを対象としたデューデリジェンス(調査・査定)の実施をスイス企業に課すことも求めていた。デューデリジェンスの具体的内容は、企業に対する人権や環境問題に関する定期報告書の提出義務、特に児童労働や紛争鉱物に関する状況の調査義務だ。

スイスにはネスレやノバルティスなどをはじめ、多数の多国籍企業が所在する。可決された場合、これら企業の事業に大きな影響が生じる可能性があった。連邦参事会(内閣)と議会は、イニシアチブの趣旨には理解を示しながらも、企業に課せられる責任が大き過ぎること、国際的に類のない厳しい規則を導入することで事業拠点としてのスイスの魅力が低減することなどを懸念し、イニシアチブに反対票を投ずるよう呼びかけていた。

また、議会は対象範囲と義務を現実的なものに狭めた間接的対案を6月に承認した。イニシアチブ案では中小企業を除く全ての企業が対象だったのに対し、議会の対案では従業員数が500人以上かつ2年連続で総資産の合計が2,000万スイス・フラン(約23億4,000万円、CHF、1CHF=約117円)、または売上高が4,000万CHF以上の大企業が対象だ。イニシアチブが否決となったため、今後6カ月間のうちにレファレンダム(注2)が提起されない限り、対案が発効する。

2つ目は、国立銀行や年金基金などによる軍需関連品製造企業への融資禁止を求めたもの。可決された場合、大手メーカーのみならず、それらに製品を納入している多数の中小企業に経済・雇用上の影響が及ぶこと、また、利益率の高い同分野の企業に投資ができなくなることで年金財政に影響が生じるとして、連邦参事会は反対するよう呼びかけていた。

写真 「責任ある企業」イニシアチブへの賛成を訴えるポスター(ジェトロ撮影)

「責任ある企業」イニシアチブへの賛成を訴えるポスター(ジェトロ撮影)

(注1)投票数で過半数の賛成を得たものの、州の過半数の賛成を得られずに否決となる例は、スイス国民投票史上ではまれで、今回は1955年以来2度目。

(注2)議会が可決した法律の是非について、国民が投票するもの。

(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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