アルバニージー政権、2022／2023年度予算案を発表

オーストラリアのジム・チャルマーズ財務相は10月25日、2022／2023年度（2022年7月～2023年6月）予算案を発表した。連邦政府は、例年5月の第2火曜日に次年度の予算案を発表しているが、2022年5月に連邦議会総選挙を控えていたため、モリソン前政権が同年3月に前倒しで予算案を発表していた（2022年4月1日記事参照）。総選挙の結果、5月に労働党のアルバニージー政権が発足し、今回新政権として初めての予算案を発表した。

同予算案のうち、ビジネスや雇用に関する主な施策は以下のとおり。

• 2022/2023年度に永住権を付与する移民の年間受け入れ数を19万5,000人に拡大する（前年度から3万5,000人増）。技術系人材不足の解消のため、ビザ審査・発給プロセスの迅速化などを目指し、今年度から2年間で4,220万オーストラリア・ドル（約40億900万円、豪ドル、1豪ドル＝約95円）を拠出する。
• 国家再生基金（National Reconstruction Fund）を設立し、来年度から7年間で150億豪ドルを投じる。将来的なオーストラリアでの製造を目指し、７つの優先分野〔（1）資源、（2）農業・林業・漁業、（3）交通、（4）メディカルサイエンス、（5）再生可能エネルギー・低排出技術、（6）防衛、（7）工学・データサイエンス・ソフトウェア開発における能力向上〕に投資を行う。
• オーストラリア国内産業活性化を目的に、製造業の高度化を目指すための助成金（今年度から4年間で1億1,360万豪ドル）を通じ、イプスウィッチ（クイーンズランド州）のバイオテクノロジー、アデレード（南オーストラリア州）の先端産業、ホバート（タスマニア州）の低炭素亜鉛をはじめとする地方の多様なプロジェクトへの支援を行い、地方の雇用創出を目指す。
• 国家鉄道計画（National Rail Plan）のもと、今年度から4年間で1,420万豪ドルを拠出し、鉄道産業支援やオーストラリアでの鉄道製造を進めるため技術職雇用支援を行う。
• 交通インフラプロジェクトに対して今後10年間で1,200億豪ドル以上の投資を目指す。政策の一環として、各州の鉄道や道路などのプロジェクト（例：ニュー・サウス・ウェールズ州のシドニーとニューキャッスル間の高速鉄道計画に5億豪ドル支援など）への支援を行う。
• 中小企業支援として、エネルギーコストの上昇に対応して今年度から3年間で6,260万豪ドルを拠出し、中小企業の省エネルギー化支援のための助成などを行う。
• 今年度から4年間で14億豪ドルを拠出し、政府開発援助（ODA）を強化。うち9億豪ドルは太平洋諸島地域への支援、4億7,000万豪ドルは東南アジアへの支援を行う。
• 太平洋諸島地域のためのオーストラリア・インフラ融資ファシリティ（AIFFP、注1）の機能を改善するため、今後10年間で5億豪ドルを追加拠出する。また、この融資ファシリティのもと、太平洋諸島地域気候分野インフラ融資パートナーシップ（注2）を設立し、5,000万豪ドルの既存の助成金で太平洋諸島地域や東ティモールの気候分野に関係したエネルギー・インフラプロジェクトを支援する。
• オーストラリアにおける多国籍企業の公平な税負担を確保するために税の抜け道をなくし、高いレベルでの税のコンプライアンスを通じて信頼性を高めるための施策を行う。たとえば、オーストラリア国税局（ATO）による脱税などを防ぐためのコンプライアンスプログラムの延長を実施するため、今年度から4年間で37億豪ドル拠出する。

国民への生活支援としては、子育て支援への補助、2026年までに有給の育児休暇を6カ月まで拡大、賃金上昇を目指す労働者への支援、ヘルスケアや高齢者ケアのさらなる充実などを打ち出している。

なお、予算案発表に伴い、連邦政府は今後の経済見通しを発表した。実質GDP成長率は、2022／2023会計年度に3.25％、その後2023／2024会計年度には1.5％のプラス成長になるとした。

（注1）「太平洋諸島地域のためのオーストラリア・インフラ融資ファシリティ（AIFFP）」とは、オーストラリア外務省（DFAT）が2019年に7月に設立し、AIFFPからの融資などにより太平洋諸島地域と東ティモールのインフラ整備（エネルギー、水道、通信、輸送の4分野）を支援するもの（2019年12月27日記事参照）。

（注2）「太平洋諸島地域気候分野インフラ融資パートナーシップ」とは、AIFFPのもとで太平洋諸島地域の気候分野（気候変動の緩和、適応、対処強靭化に貢献する）インフラプロジェクトへの支援を行うもの。

（青島春枝）