カナダ政府、「秋の経済声明」でグリーンエネルギー投資への優遇税制発表、米国のインフレ削減法に対応

(カナダ、米国)

トロント発

2022年11月11日

カナダのクリスティア・フリーランド副首相兼財務相は11月3日、今後の財政支出計画や経済見通しなどをまとめた「2022年秋の経済声明(Fall Economic Statement 2022)」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。声明では、2023年のカナダの景気後退の可能性について警告したほか、米国でインフレ削減法を通じて税制や気候変動面の対策が承認されたのと同様に、自社株買いに対する新たな課税やグリーンエネルギー投資に対する大幅な優遇措置の計画も発表した。

経済声明は、第1章「生活をより豊かにするために」、第2章「雇用、成長、全ての人に役立つ経済」、第3章「公正かつ効果的な行政」の計3章で構成している。

歳出面では、「生活をより豊かにするために」で、学生らを対象とした教育関係融資の利息免除などの救済策を提示した。「雇用、成長、全ての人に役立つ経済」では、向こう5年間で67億カナダ・ドル(約7,236億円、Cドル、1Cドル=約108円)を投じ、低炭素エネルギー発電・技術など、グリーンエネルギーへの設備投資に対する30%の税控除の導入(2023年度予算から税控除開始)や、クリーンな水素製造に対する税控除を進めると発表した。これら措置の導入の背景について、声明では「(米国の)インフレ削減法(2022年8月17日記事参照)は、北米のネットゼロ経済への移行を加速させることは間違いないが、電気自動車のバッテリー生産から水素、バイオ燃料まで、米国に生産拠点を置く企業に膨大な財政支援を提供している」と述べ、「同法に追いつくための新たな措置がなければ、カナダは取り残される危険性がある」と危機感を示している。

歳入面では、「公正かつ効果的な行政」で、カナダの上場企業が余剰資金で自社株を購入する「自社株買い」の純額に対して、2%の課税を提案している。詳細は2023年度予算案で発表され、2024年1月1日に施行される。この税について、声明で「米国で最近導入された措置と同様に」と説明しているとおり、米国ではインフラ削減法により自社株買いに対して買い戻し価格の1%を2023年1月から課税することになった(2022年10月6日付地域・分析レポート参照)。

カナダ経済の見通しについては、2022年の実質GDP成長率は3.2%となるものの、2023年は0.7%へと鈍化し、2024年には1.9%への回復を見込んでいる(添付資料表1参照)。ただし、下振れ局面の見通しも想定しており、その場合には、2022年の3.1%を経て、2023年にはマイナス0.9%まで落ち込んだ後、2024年には2.3%への回復を見込んでいる。

財政赤字については、2022/2023年度(2022年4月~2023年3月)は364億Cドルを見込んでおり、前年度(902億Cドル)から縮小して、累積債務残高はGDPの42.3%へと減少する見通しだ(添付資料表2参照)。

政府の声明発表を受け、カナダ製造・輸出業者協会(CME)のデニス・ダービー会長兼最高経営責任者(CEO)は「(声明は)アクションプランが少し欠けている上、時間は刻々と過ぎていく。投資税額控除と水素税額控除はまさに米国が行っていることを反映したものだが、(米国からは)数カ月遅れを取っており、もしこれが次の予算で実現しなければ、さらに数カ月遅れることになるだろう」 と述べた(「グローブ・アンド・メール」紙11月3日)。

(飯田洋子)

(カナダ、米国)

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