南西アジア主要国の速いペースの利上げも、効果見えず

(インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ)

アジア大洋州課

2022年10月12日

南西アジア主要国の通貨が2022年に入って、ドルに対して下落している。10月11日時点では、年初比でスリランカ・ルピーが44.6%減、パキスタン・ルピーは18.7%減、バングラデシュ・タカは15.8%減、インド・ルピーは9.6%下落した。経済危機にあるスリランカや、インフレ率が拡大していたパキスタンでは、2021年ごろから既に通貨の下落が目に見えるかたちとなっていた。ここにきて、バングラデシュやインドでも通貨の下落が鮮明になり始めた。

為替の減価に伴うインフレ率の上昇から、各国中央銀行は政策金利の引き上げを加速している。インドは4会合連続の利上げを9月30日の金融政策決定会合(MPC)で決め、政策金利を5.90%とした。中銀は、インド経済が世界的なインフレ傾向に加え、通貨インド・ルピー安、外貨準備の減少、金融安定化リスクなどの圧力にさらされ、外需の悪化も伴って、経済見通しはますます厳しいと見立てた(2022年10月11日記事参照)。バングラデシュ中央銀行は9月29日に消費者物価抑制のために政策金利を5.75%に引き上げた。年初の政策金利は4.75%だった。

パキスタンの現在の政策金利は15.00%となっている。インフレ率が高止まりしているために、政策金利は高い水準で据え置いている。年初の政策金利は9.75%だったが、5.25ポイント引き上げた。金融引き締め政策を推し進めるものの、8月のインフレ率は前年同月比27.3%と上昇基調が止まらない。スリランカの政策金利は14.5%で、パキスタンを上回る70.2%(8月)のインフレ率となっている。年初の政策金利5.0%から9.5ポイント引き上げた。

政策金利の引き上げは一般的に、為替レートを増価させ、結果的にインフレ率の抑制につながる。しかし実際には、政策金利の引き上げが為替レートの増価には結びついていない。例えば、直近に政策金利を引き上げたインドのルピーは、10月11日時点では1カ月前比3.5%下落、バングラデシュのタカは6.7%下落と利上げの効果は限定的となっている。米国でのインフレ率が高止まりし、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ打ち止めが見通せないことが要因の1つとみられる。南西アジア諸国は利上げを速いペースで進めるものの、各国でインフレ率落ち着きの兆しが見られないばかりか、スリランカが2四半期連続マイナス成長となったように(2022年9月20日記事参照)、利上げが実体経済を過度に収縮させるリスクの可能性も出ている。

(新田浩之)

(インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ)

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