欧州委、電力需要削減策とエネルギー事業者の超過収入に対する措置に関する法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年09月16日

欧州委員会は9月15日、高騰するエネルギー価格に対する緊急介入策となる法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委は以前から、緊急介入策を提案する意向を明らかにしており(2022年8月31日記事参照)、9月9日に開催されたEU理事会(閣僚理事会)において、加盟国に対して欧州委案を示していた(2022年9月12日記事参照)。

今回発表された法案は、欧州委が検討しているとした緊急介入策のうち、電力需要の削減策とエネルギー事業者の超過収入に対する措置に関するもの。流動性対策に関しては10月に提案する予定とし、ガス価格の上限設定に関しては、欧州委・加盟国間で意見が割れているとみられることから、今回の法案には含まれていない。欧州委は、ロシア産天然ガスに限定して上限価格を設定する意向を示していたが、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長による一般教書演説(2022年9月15日記事参照)では、ロシア産天然ガスへの言及はなかった。

電力需要の削減策は、既に施行されているガス備蓄義務化規則(2022年7月4月記事参照)とガス需要削減規則(2022年8月9日記事参照)に続く介入策で、加盟国に対して電力需要の削減目標を課す。削減目標は、過去5年の総電力消費量の同月平均から10%削減を求める努力目標と、月ごとに電力消費ピーク時の総電力消費量予測から最低でも5%削減を求める法的拘束力を持った目標からなる。

EUでは、ロシアからの天然ガス供給が大幅に減少する中で、ガス備蓄により冬季のエネルギー需要を乗り切ろうとしている。ピーク時の最終的な電力需要を満たす発電源は、最も発電コストが高い発電源で、現状では天然ガスによる火力発電であることから、欧州委はピーク時の5%削減義務の実施により、冬季の4カ月間で12億立方メートル分の天然ガスを節約できると試算している。なお、電力需要の削減方法に関しては、加盟国は自由に設定できるとしているが、法案は加盟国に対して、入札などの市場原理に基づく措置をとることや、金銭的な補償を行う場合には消費量の節約分に対する補償にとどめることなどの実施要件を満たすよう求めている。

エネルギー事業者の超過収入に対する措置に関しては、まず、風力・太陽光などの再生可能エネルギー、原子力、亜炭、石油など、天然ガスよりも発電コストが低い発電源から発電した電力の販売により市場から得られる収益に上限を設定する。上限額は、事業者に対して一定の利益と将来への設備投資に対するインセンティブを保障する必要性を考慮して、1メガワット時につき180ユーロとした。収益上限の適用対象には、電力市場での販売だけでなく、長期購入契約なども含まれる。

また加盟国は、石油、ガス、石炭、その精製の各産業のEU企業と域内の恒久的施設を対象に、2022年に得られた課税対象となる利益のうち、過去3年の平均と比較して、20%を超える増加分に対して、加盟国法に基づく通常の課税とは別に、少なくとも33%以上を「連帯負担金」として追加的に課す。

収益上限を超える収益と連帯負担金は、加盟国が徴収し、エネルギー価格高騰の影響を受ける家計や企業への支援や、再生可能エネルギーへの投資などに充てられる。なお、欧州委は、今回設定する収益上限を超える収益からの歳入を最大で1,170億ユーロ、連帯負担金からの歳入を約250億ユーロと試算している。

この法案は今後、早期の合意を目指して、EU理事会で審議される。なお、EU理事会は、一部の加盟国が反対する場合でも、特定多数決により、この法案を採択することができる。採択された場合、電力需要削減策と収益上限の設定は、12月1日から2023年3月31日まで、連帯負担金の徴収は、2022年の超過利益を対象に遅くとも2022年末までに、それぞれ適用される予定だ。

(吉沼啓介)

(EU)

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