米電力網で天然ガス発電量増加、7月に過去最高を更新

(米国)

ヒューストン発

2022年08月26日

米国エネルギー情報局(EIA)は823日、米国の天然ガス火力発電による1時間当たりの発電量が7月中旬に過去最高値を更新したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

EIAによると、米国のアラスカ州とハワイ州を除く米国本土48州において、天然ガス火力発電による発電量が721日に637万メガワット時(MWh)を記録した。平年より高い気温、石炭火力発電量の減少、また、最近の天然ガス火力発電能力増強の結果、7月を通して発電用の天然ガス需要は高い水準が続いたという。

米国の電力需要は通常、冷房需要の増加により夏期にピークを迎える。これまでの天然ガス火力発電量の最高値は、天然ガス価格が歴史的に安かった2020727日に記録していた。EIAによると、100万英熱量単位(MMBtu)当たりの米国ヘンリーハブ・スポット平均価格(天然ガス先物価格)は20207月に1.77ドルだった。一方で、20222月のロシアによるウクライナ侵攻以降のエネルギー価格高騰などにより、同平均価格は20227月に7.28ドルと高騰している。EIAは、天然ガス価格が高騰しているにもかかわらず発電量が増加した理由として、2022年の7月は特に気温の高い日が続き、米国では観測史上3番目の暑さだったことを指摘している。また、高効率なガスタービンの普及により、同じ量の天然ガスでより多くの電力を発電できるようになったことを理由に挙げている。EIAは過去10年間で、コンバインドサイクル(注)による、高効率なガスタービンの発電量が約62ギガワット(GW)増加したとしている。

なお、天然ガス火力発電の発電量増加にもかかわらず、テキサス州では電力需給逼迫による停電回避のため、7月に2度にわたり同州内の家庭や企業に対して節電要請が実施されている(2022年7月19日記事参照)。この節電要請について、米国テキサス州内の9割の電力系統運用を行うアーコット(ERCOT)は、テキサス州をはじめ米国中部を熱波が広く覆ったことに加え、風が弱く風力発電が例年同時期の発電量を下回ったことや、天候不順により太陽光発電の発電量が減少したことを理由に挙げている。

バイデン政権は、2050年のカーボンニュートラルを掲げ、2022816日には連邦議会で風力発電や太陽光発電への投資増強を含むインフレ削減法案が可決されるなど、米国ではクリーンエネルギー導入の動きが進む(2022年8月17日記事参照)。一方で、7月のテキサス州節電要請のように、天候などにより発電量が変動する再生可能エネルギーは化石燃料に比べ供給安定性に劣り、エネルギー安全保障の観点からも再生可能エネルギーへの依存一辺倒にはリスクがあるのが実情だ。天然ガスは、化石燃料の中でも燃焼時のGHG(温室効果ガス)排出量が少ないことから、カーボンニュートラルへの移行期間において、その供給安定性で再生可能エネルギーを補完する「トランジションエネルギー」として、重要性が増しているとみられる。

(注)ガスタービンのみ単独で運転される発電方式では、ガスタービンからの高温排ガス(摂氏600度程度)は大気に放出されるが、コンバインドサイクル発電方式では、この高温排ガスを熱回収し、プラントの総合熱効率の向上をはかったもので、より効率的な発電が可能となる。

(沖本憲司)

(米国)

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