連邦通信院、大統領を相手に空席理事の未指名は憲法違反と提訴

(メキシコ)

メキシコ発

2022年08月26日

メキシコ連邦通信院(IFT)は822日、3人の空席理事の候補を大統領が一向に指名しないことは憲法違反だとして、最高裁判所に提訴したことをプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで明らかにした。IFTは、20136月の憲法改正による通信市場改革で同年9月に創設された独立自治機関(2015223日記事参照)で、公共通信に用いる周波数帯を管理するとともに、通信市場における公正な競争を監視する規制機関だ。IFTの最高意思決定機関である理事会は定員7人だが、現時点では4人の理事のみが在籍し、任期が切れで退任した理事3人の後任が任命されていない。憲法第28条が定めるIFTの理事任命プロセスによると、国立統計地理情報院(INEGI)と中央銀行の代表からなる評価委員会が適正試験などを実施して候補者リストを作成し、同リストの中から大統領が最終候補を指名して上院の承認にかける。上院は、出席議員の3分の2以上の賛成をもって正式に理事を任命する。

IFTによると、評価委員会は20202021年に、3人の後任理事の任命に向けた候補者リストを適正なプロセスを経て作成している。大統領は20201216日に2人の後任理事についての指名を行って上院の承認に付したが、上院で必要な賛成を得られることができずに否決されてしまった。その後、約1年半が経過しているが、大統領は新たな後任理事候補の指名を一切行っておらず、IFT理事会は4人体制での運営を余儀なくされている。

IFTはプレスリリースにおいて、大統領が憲法で定められた指名の義務を怠っていることは、憲法および関連法が定めるIFTの権限や本質的役割の遂行を危うくし、憲法が付与するIFTの独立自治を侵害し、憲法や法律が定める機能を完全に果たすことを困難にしている、と主張する。また、IFTの現行理事は全て男性のため、憲法第41条が定める連邦行政機関や独立自治機関における「ジェンダー平等」にも反した状態にあるという。

COFECEも同様、大統領による独立規制機関軽視を問題視する声も

独立規制機関の理事会メンバーに欠員が生じているのは、IFTだけではない。通信市場以外の競争状況を監視する独立規制機関である連邦経済競争委員会(COFECE)の理事会メンバーも、本来は7人であるところ、大統領の上院に対する指名が行われないことにより4人での運営を強いられている(2022年3月18日記事参照)。大統領は以前から独立自治規制機関を連邦省庁に統合する考えを示しており、理事後任の指名を行わないことで、独立規制機関の弱体化を狙っている、と批判する声もある。米国務省も728日に発表した2022年の投資環境報告の中で、COFECEIFTなど独立規制機関が弱体化していることを問題視している(2022年8月9日記事参照)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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