米国務省がメキシコ現政権のエネルギー政策を問題視

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2022年08月09日

米国務省は728日、2022年の投資環境報告を発表し、メキシコについての報告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの中でアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が進めるエネルギー政策について強い懸念を表明した。「現政権がメキシコ石油公社(PEMEX)や電力庁(CFE)を民間企業よりも優遇した結果、多くの民間企業が提訴する事態に陥った」とし、電力産業法の改正(2021311日記事参照)、炭化水素法の改正(202156日記事参照)などを問題視するとともに、米国タロスエナジーの発見したザマ(Zama)油田の資源開発オペレーターを、エネルギー省がPEMEXに決定したことに端を発した紛争(202177記事202197日記事参照)についても、「民間コンソーシアムが2億ドル以上を投じて発見した油田であり、国際仲裁を通じた補償が模索される事態に発展した」としている。

また、現政権下で政府と民間企業との間の契約が尊重されないこと、治安が悪化していること、連邦経済競争委員会(COFECE)や連邦通信院(IFT)など独立規制機関が弱体化していること(2022318日記事参照)なども問題視する。

USMCAに基づくパネル設置は不可避か

メキシコのエネルギー政策については、720日に米国政府が、721日にカナダ政府が、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の規定に反するとして協定第31章(紛争解決)の規定に基づき、協議を申請している。しかし、メキシコのAMLO大統領やロシオ・ナーレ・エネルギー相は、USMCA8章「メキシコの炭化水素の直接的、不可譲、制限のない所有権の承認」を根拠に、メキシコはUSMCAに違反していないという主張を繰り返しており、「メキシコは主権国家であり植民地ではなく」「メキシコを売り渡すことはなく、メキシコはメキシコ国民のもの」といった内容を伝える書簡をバイデン大統領に送付したことを明らかにしている(82日付AMLO大統領早朝記者会見録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

しかし、USMCA8章は、地下資源として眠る炭化水素についてのメキシコの主権を米国やカナダが尊重するという内容にとどまり、米国やカナダが問題視する発電事業や燃料の輸入販売ビジネスにおいて、民間企業よりもCFEPEMEXを優遇する直接的な根拠とはならない。他方、USMCAの第32.11条は、協定付属書IIIIVでメキシコが投資、越境サービス、国有企業の章との関係で特別な留保を設定していない分野については、メキシコが締結する他の既存の貿易投資協定で留保・免除した最低限の範囲の現行規制の維持、あるいは将来の規制の導入が可能としている。メキシコは、20181230日に発効した、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)において、発電事業やガソリン販売業などへの投資や越境サービスを加盟国企業に対して認めている。したがって、USMCAの枠組みで米国にも同等の待遇が与えられると解されるため、AMLO政権の政策はUSMCAに整合的でないとみる国内の識者が多く、協議で米国やカナダを納得させることは不可能で、パネル設置は避けられないという見方が強い。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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