ペロシ議長訪台が米中関係やインド太平洋の安全保障に影響、米シンクタンク

(米国、中国、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン)

米州課

2022年08月19日

米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は815日、ナンシー・ペロシ連邦下院議長の台湾訪問(2022年8月3日記事参照)がもたらしたインド太平洋地域への影響について、一問一答形式のレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。レポートでは、ペロシ議長の訪台と、それに反発する中国の台湾海峡での大規模軍事演習により、4次台湾海峡危機の可能性が取り沙汰されるなど、インド太平洋地域の安全保障に懸念が広がっていると指摘した上で、米中関係や台湾経済への影響について分析している。

1)米中関係への影響

レポートでは、米中が互いにどちらの国が緊張をあおったかという議論の応酬になったと指摘した。中国は自国の主権と領土が侵害されたと主張したのに対し、米国は、ペロシ議長の訪台がこれまでの米国の台湾政策に何ら変化をもたらすものでもなく、中国の軍事演習は中国側の過剰な反応だと主張したとして、ペロシ議長訪台前後の米中論争を総括した。また、中国は麻薬取り締まりに関する協力、軍事対話、気候変動に関する交渉など多くの問題で米国との対話を停止すると発表(2022年8月9日記事参照)した一方で、バイデン米政権は対中追加関税維持を検討するなど、ペロシ議長の訪台を契機とした緊張の高まりが2国間関係の広範な分野に波及していると指摘した。

2)台湾経済への影響

ペロシ議長の訪台が台湾経済に影響を及ぼすことは「ほとんどなかった」と結論づけた。台湾の株式市場はペロシ議長の訪台前後にやや下落したものの、通常の値動きの範囲内だったとした。また、緊張の高まりを受けて、台湾を発着する一部の航空便がキャンセルまたはルートが変更されたが、既に通常に戻っていると述べた。

3)台湾有事の場合の影響

仮に戦争や禁輸措置(Embargo)が講じられた場合の台湾経済は「脆弱(ぜいじゃく)」と警鐘を鳴らした。レポートでは、台湾の輸出の42%は依然として中国向けで、輸入の22%は中国から(米国はそれぞれ15%、10%)として、「台湾の経済は中国に大きく依存しており、戦争や封鎖が起これば、壊滅的な打撃を受ける可能性が高い」と指摘した。一方で、中国も台湾積体電路製造(TSMC)や他の台湾企業に絶対的に依存しているとして、台湾有事の場合「中国経済への代償は計り知れないものがある」と指摘した。

4)インド太平洋地域各国の受け止めや反応

日本について、中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したことを受けて、岸田文雄首相が85日のペロシ議長との朝食会で「日本の安全保障と国民の安全にかかわる重大な問題」と非難(2022年8月8日記事参照)したことを挙げ、「米国の同盟国の中で中国の軍事演習を非難することに最も積極的だった」と評した。

韓国については、ペロシ議長の訪台に「非常に慎重だった」として、これは台湾海峡問題が朝鮮半島に波及し、北朝鮮の非核化に対する中国の協力が損なわれることを懸念したためと理由づけた。

オーストラリアに関しては、同国の安全保障に対する台湾の戦略的重要性について議論が生まれつつあると指摘。ペロシ議長の訪台を受けた中国による軍事演習は、オーストラリア国内の議論や政権方針に影響を与える可能性があるとした。

ASEANについては、810日に開催された東アジアサミット外相会議とASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議の議長声明で中国や台湾を名指しせずに懸念を表明し、対話を促すとしたことについて、「いびつな共同声明」と指摘した。

一方で、フィリピンでは、地理的近接性から同国も当事者となる可能性が高いことから、中国に対する懸念は高まっていると指摘。また、米国とフィリピンは、台湾有事を想定した「率直な話し合い」を持ち始めているとして、関係性の変化を示唆した。

(葛西泰介)

(米国、中国、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン)

ビジネス短信 e07e3f4be8a6eb67