原子力は排出量ネットゼロに役立つと米KBRがレポート

(米国)

ヒューストン発

2022年08月08日

原子力発電所の廃炉作業などに従事する米国KBR(本社:テキサス州ヒューストン)は84日、「原子力は排出量ネットゼロに役立つ」と題するレポートを公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

KBRはレポートで、(1)世界的なエネルギー転換の実現には原子力が必要、(2)原子力はクリーン発電実現までのギャップを解消し得る、(3)二酸化炭素(CO2)排出量の削減と経済成長の両立に向けて原子力発電所への投資が必要、(4)原子力発電所の新しい資金調達モデルが必要ということを主張している。

1)では、原子力発電所を新設しなければ、世界的なエネルギー転換の実現はより困難になるとしている。先進国の原子炉は設置から平均35年が経過するなど老朽化が進み、2025年までに先進国にある既存の原子力発電容量のうち4分の1がなくなるとしている。国際エネルギー機関(IEA)によると、今後の旺盛なエネルギー需要を賄うには、今後20年間で16,000億ドルの追加費用が必要だとしている。

2)に関しては、風力発電や太陽光発電、潮力発電、地熱発電の設備が今後多く建設され、エネルギー貯蔵などの新しい技術が開発・商業化されるまでの数十年間、原子力発電はそのギャップを埋める可能性があるとしている。現在、風力発電と太陽光発電は世界のエネルギー生産のわずか10%を占めるだけだが、IEAによると、2050年までに風力発電などのクリーン発電の割合が70%になり、残りはCO2を排出しない原子力発電で賄われると予測している。

3)については、ネットゼロ達成と経済成長を両立させるために、2050年までに7,000ギガワット(GW)の原子力発電設備が必要としている。また、現段階で小型モジュール式原子炉(SMR)に投資すれば、2020年代後半から30年代初頭までに、新しい原子力エネルギーが世界市場に登場するとしている。

4)では、原子力発電所の資金調達は常に課題となっており、その解決のため、新規原子力発電事業への民間投資促進、政府による原子力の資金調達コスト削減が重要と提言している。

新しい原子力エネルギーとしてレポートも言及したSMRについては、米国で事業化に向けた取り組みが進められている。SMRの技術開発を行なう米国のニュースケール・パワー(本社:オレゴン州ポートランド)は52日、SMRの商業化加速に向け、特別買収目的会社のスプリング・バレー・アクイジション(本社:テキサス州ダラス)との企業結合を完了したと発表した(2022年5月9日記事参照)。また、ニュースケール・パワーは728日、原子力や航空宇宙、医療関係などさまざまな機器の試験や検査、認証を行うナショナル・テクニカル・システムズ(本社:カリフォルニア州アナハイム)とSMR機器を認証する試験室の開発で提携したと発表した(2022年7月29日記事参照)。

(沖本憲司)

(米国)

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