米メキシコ湾浅海域の石油・ガス施設、メタン損失率は陸上施設の最大20倍、民間調査

(米国)

ヒューストン発

2022年08月17日

米国の温室効果ガス(GHG)削減に取り組む非営利団体カーボン・マッパーは811日、メキシコ湾浅海域の海洋石油・ガス生産施設からのメタンガス(注1)排出量が、パーミアン盆地の石油・ガス生産施設からの排出量よりも著しく多いとの調査結果(注2)を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。パーミアン盆地は、テキサス州西部とニューメキシコ州南東部の一部にまたがる広大な地域で、国内有数のシェールオイルとシェールガスの生産地として知られている。

天然ガスを液化することで生産される液化天然ガス(LNG)は、(1)化石燃料の中でも燃焼時のGHG排出量が少ないことに加え、(2)埋蔵量が豊富で世界各地で産出されるため石油のような地政学的リスクが低く供給安定性に優れ、(3)また、世界的に取引量が拡大する中で経済合理性が高まることから、天候などにより発電量が変動する再生可能エネルギーを補いつつ、カーボンニュートラルに向けて低炭素化を促進する「トランジションエネルギー」として、重要視されている。一方で、その生産から供給までのプロセスで、石油・ガス井や貯蔵タンク、パイプラインなどからメタンが漏出することが指摘されている。今回調査では、観測されたメタン排出量を、天然ガス生産量と比較した「メタン損失率」を算出した。その結果、カーボン・マッパーは、パーミアン盆地で実施した他の調査との比較において、メキシコ湾浅海域の石油・ガス生産施設のメタン損失率(2366%)はパーミアン盆地(3.33.7%)の最大20倍に上るとしている。

海洋石油・ガス生産施設は、世界の石油・ガス生産の約3割を担っているとされている。しかし、カーボン・マッパーは、海洋石油・ガス生産施設がパーミアン盆地などの陸上の石油・ガス生産施設に比べ、遠隔地にあることや、暗い水面が太陽の反射を妨げ、メタンガス測定を困難にするという技術的課題などから、これまでメタン排出量の測定はほとんど実施されてこなかったと指摘している。

カーボン・マッパーおよびアリゾナ大学で研究員を務めるアラナ・アヤッセ氏は「本研究は、海洋石油・ガス生産地域の透明性向上と、遠隔監視を継続することの重要性を示すものだ」と述べ、航空機と衛星を用いた追加調査を実施する予定であることを明らかにしている。

なお、米国環境保護庁(EPA)は81日、パーミアン盆地での大気汚染物質やGHGの排出源を特定するため、飛行観測を実施すると発表した(2022年8月2記事参照)。一方で、テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は、EPAがパーミアン盆地の大気汚染物質の排出規制を求める動きに反対している(2022年7月5日記事参照)。

(注1)メタンガスはGHG1つで、米国のGHGに占めるメタンガスの割合は約10%にとどまるものの、二酸化炭素(CO2)の約25倍の温室効果があるとされており、温暖化効果は相対的に大きいとされる(2022年4月11日記事参照)。

(注2)調査は、カーボン・マッパーがアリゾナ大学、NASAジェット推進研究所、ミシガン大学、アリゾナ州立大学と共同で実施。メキシコ湾浅海域にある151の石油・ガス生産プラットフォームを対象に、2021年春季(427日~58日)および秋季(1019日~1119日)に18,000フィート(約5,500メートル)の上空から、メタンガス発生源を誤差約15フィート以内で特定できる分光器を用いて大気観測を行った

(沖本憲司)

(米国)

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