ブラジル全国肥料会議、ウクライナ情勢受けて農業の貢献と肥料安定調達を議論

(ブラジル、世界、ロシア、ウクライナ、中東)

サンパウロ発

2022年08月29日

ブラジル全国肥料普及協会(ANDA)は823日、サンパウロ市内で第9回全国肥料会議を開催した(注1)。

会議のテーマは、ブラジル国内で使用される肥料の85%が輸入に依存している現状とウクライナ情勢を踏まえ、ブラジル農業による世界の食料安全保障への貢献と、これを支える肥料の安定調達の現状と対策だ。政府や業界団体、肥料メーカーなどの官民関係者が議論に加わり、リアルとオンラインのハイブリッド形式で開催、会場には約400人が参加した。

出席したマルコス・モンテス農業・牧畜・供給相は「農業はブラジル経済の柱」とし、ロシア・ウクライナ間の紛争後もブラジルの農家に必要な肥料調達ルートは維持されていると説明した(2022年7月1日記事参照。ブラジル国内では3月、ウクライナ情勢の変化により、肥料確保への懸念が高まっていたが(2022年3月22日記事参照、同会議に登壇した農業分野のコンサルティング業務を行うアグロコンスルチのアンドレ・ペソア・マネジングパートナーは、2022年にブラジルに輸入される肥料は3,680万トン(前年比6%減)、国内生産と輸入を合わせてブラジル市場に投入される肥料は4,510万トン(前年比1.7%減)との見通しを立てた上で、2022/2023年度の大豆、トウモロコシ(第1期作)、綿花生産に使用する肥料は既に農家が約90%を確保済みとのデータを紹介した。

フラビオ・アウグスト・ホッシャ大統領府戦略特別局長は、3月に施行した「国家肥料計画」について、中長期の視点でブラジルの肥料の対外依存度を下げていく国家戦略として強調した。この計画には、国内の全省庁に加え、ブラジル農牧研究公社(embrapa)や92の協会・企業・大学などの同国農業関係者が参画している。ホッシャ局長は政府としてアラブ諸国からの投資誘致を働きかけたことも明らかにした(823日付現地紙「グルーポ・プブリケ」)。

国連食糧農業機関(FAO)のラファエル・ザバラ・ブラジル代表は、2021年以降エネルギー価格の高騰などによる生産コスト増大で、肥料価格が高値で推移してきたことを説明した(注2)。米国大手肥料メーカーのモザイクが毎月発表しているブラジル農家の肥料購買力指数(IPCF、注3)によると、7月までは高い水準(添付資料図参照)となっており、農家の収益や食料価格に影響する動向として、今後の動きに注目が集まる(2022年5月31日記事参照)

ノルウェーの大手肥料メーカー、ヤラ・ブラジルのマルセロ・アルティエリ社長は、気候変動への対応について、持続可能な食料生産に貢献する必要性に迫られており、現状では窒素肥料の生産に100%化石燃料を使用しているところ、例えば、バイオメタンなどの再生可能エネルギーを使った生産体制に置き換えていくことで、80%の二酸化炭素(CO2)排出量を削減出来る(2022年4月11日記事参照)との見方を示した。具体的には、サトウキビの搾りかすからバイオメタンを生成し、それを使って生産するグリーンアンモニアをもとに窒素肥料を生産し、その肥料をサトウキビの生産に使用するという循環型の生産体制を考えていく必要があると説明した。

ブラジルの元駐米大使でブラジル小麦産業協会(Abitrigo)会長のルーベンス・バルボーザ氏は、ロシア・ウクライナ間の紛争などで世界の不可実性が高まる中、食料供給国としてのブラジルの立場は揺るぎないとの見方を示し、農業界のさらなる躍進に期待を示した。

写真 マルコス・モンテス農業・牧畜・供給相のプレゼンテーション(ジェトロ撮影)

マルコス・モンテス農業・牧畜・供給相のプレゼンテーション(ジェトロ撮影)

(注1)当該会議は2011年から開催されている。

(注2)ザバラ代表は、肥料価格が高値で推移してきたものの、8月から米国での肥料価格が下落傾向になっていることは良いニュースと補足した。

(注3)IPCFとは、肥料価格とブラジルの主要作物である大豆、トウモロコシ、砂糖、サトウキビ、綿花の価格を比較し、農家の肥料購買力を表す指数。2017年がベースとなっており、1未満の数値の場合は2017年時点より農家の肥料購買力が高いことを示す。1より大きい数値になれば、2017年時点より農家の肥料購買力が低くなっていることを示す。

(古木勇生)

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