米大企業で大幅賃上げ相次ぐ、アマゾン、ウォルマート、アップルなど

(米国)

ニューヨーク発

2022年06月03日

米国の大企業で大幅な賃上げが相次いでいる。複数の米国メディアによると、IT企業のアップルは5月25日、米国の従業員の給与を10%以上引き上げ、販売担当スタッフの最低賃金も時給22ドル以上とする。小売り大手のウォルマートは、店舗や倉庫に商品を配送する長距離トラック運転手の給与を、入社1年目でも最大で年収11万ドルとし、2019年初との比較で25%程度引き上げるとしている。また、インターネット小売り大手のアマゾンでは、米国内における基本給の年収上限を35万ドル、前年同水準の2.2倍にまで引き上げている。2021年には、小売り大手のターゲットが時給を24ドル、コストコが時給を17ドルに引き上げており、全体でも企業の7割が2022年第1四半期に既に賃上げを実施したと回答するなど(2022年4月27日記事参照)、2022年に入ってからも賃上げの動きが継続している。

行政府の動きを見ても、米国シンクタンクのエコノミック・ポリシー・インスティテュートによると、2022年に入り21州が法定の最低賃金を引き上げており、その結果、全米で最低賃金が最も高くなっているカリフォルニア州では時給15ドル、毎年、物価動向に応じて最低賃金が改定されているニューヨーク州では13.2ドルなど、連邦政府が定める最低賃金の時給7.25ドルに比べると2倍前後の水準に達している。

こうした動きの背景には、歴史的なペースでのインフレと人材難がある。消費者物価の伸び率はここのところ年率8%程度の水準で推移しており、特に食品やガソリンなどの生活必需品は2桁以上の伸びで推移するなど(2022年5月12日記事参照)、人々の生活を圧迫している。加えて、新型コロナ禍からの人々の労働復帰の動きが鈍く、労働参加率はコロナ前の水準をいまだ回復していない(2022年5月9日記事表1参照)。

また、大企業にとっては、最近相次いでいる従業員による労働組合結成の動きを抑え込もうとする意味合いもありそうだ。最近、結成が認められたニューヨーク市のスタテン島にあるアマゾン倉庫の労働組合は、時給30ドルや休憩時間の確保など福利厚生条件の大幅な引き上げを求めているとされる。同じく、各店舗で労働組合の動きが相次ぐスターバックスでも、同様の労働条件改善の求めがあり、経営陣は賃金引き上げを急いでいるとされる。今回のアップルの賃金引き上げも、在宅勤務見直しを経営陣が打ち出したことをきっかけに、従業員に組合結成の動きが見られたことに対する手当の1つと指摘する報道もある(CBSニュース5月26日)。賃金引き上げは、労働者にとっては望ましいが、高すぎる賃金上昇は商品価格に転嫁されることなどによって、かえってインフレを助長する可能性もある。労働組合結成を含めて、米国での賃金引き上げの今後の動きが注目される。

(宮野慶太)

(米国)

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