エネルギー安全保障法案の概要を提示、コミットメントの実現へ

(英国)

ロンドン発

2022年05月17日

5月10日に行われた英国議会開会式での施政方針演説(2022年5月12日記事参照)の中で、エネルギー安全保障法案の概要が提示された。本法案は、これまでの「グリーン産業革命のための10項目の計画(2020年11月20日記事参照)」、「エネルギー安全保障計画(2022年4月13日記事参照)」に盛り込まれたコミットメントを達成するためのもの。

法案の主な要素は以下のとおり。

  • 炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)における炭素の輸送と貯留、低炭素水素、産業用炭素回収の新たなビジネスモデルを導入する。
  • 主要な燃料供給事業者に対し、指示、情報の要求、財政支援を行う権限を政府に与え、燃料の安定供給を確保する。
  • 電気ヒートポンプの消費者市場拡大に向けた投資強化のために、新たな市場基準と取引スキームを提供し産業を支援する。
  • ガス・電力市場局(Ofgem)を熱供給網の新たな規制機関として任命し、消費者が公正な価格と安定した熱供給を得られるようにする。
  • 現行では2023年までとしているエネルギー価格上限制度を延長し、エネルギー供給事業者が消費者に過大な料金を課すことを防止する。
  • 2026年の熱供給の脱炭素化に向け、水素が果たす役割を検討するため、初の大規模な水素暖房の実証試験を可能にする。
  • 英国の陸上電力網に競争を導入し、投資と技術革新を促進し、コスト削減を可能にする。
  • 核融合エネルギーの技術革新を促進する新たな規制環境を構築する(2022年2月16日記事参照)。
  • 電力とガスのシステム全体を戦略的に監督するフューチャーシステムオペレーター(FSO)を設立する(2022年4月13日記事参照)。これによりネットゼロ、エネルギー安全保障の促進、消費者負担の最小化を推進する。
  • 古い原子力発電所の安全かつ費用対効果の高い閉鎖を促進する。

同発表に対し、業界団体エナジーUKのダラ・ビヤス氏は、今回の法案概要に関し、暖房などの熱利用者への保護拡大や、低炭素発電や貯蔵の拡大支援に不可欠な送電と接続に焦点が置かれたことを歓迎した。一方、非営利団体エナジーセービングトラストのステュー・ホーン氏は本法案が現行法制を現状に即したものにする上でよい機会であるとしながらも、住宅のエネルギー効率改善に関するさらなるコミットメントなども盛り込まれるべきだったと指摘したほか、エネルギーコスト上昇に対する短期の家計支援が必要とも指摘した。

(宮口祐貴)

(英国)

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