欧州産業界、モビリティー部門の水素インフラ整備目標引き上げを要請

(EU)

ブリュッセル発

2022年05月06日

欧州の水素利用を推進する産業団体Hydrogen Europeなど、欧州の道路輸送部門や水素関連の100以上の企業・団体は4月27日、EU理事会(閣僚理事会)に対して水素充填(じゅうてん)インフラ整備の目標水準の引き上げを求める書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を送付した(Hydrogen Europeのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。Hydrogen Europeなどは、燃料電池車(FCEV)など水素自動車は高速の燃料補給を望み、また車での移動が多い個人・企業に適しており、実際、販売台数や車種、水素技術に投資する企業が急速に増えていると指摘。需要増加を見越して欧州委員会が2021年7月に提案した代替燃料インフラ整備に関する改正規則案(2021年7月16日記事参照、注1)より野心的、かつ現実的なインフラ整備目標が必要だとした。

署名企業・団体は、水素充填施設は乗用車だけでなく、商用車や大型トラックを含むあらゆる車種に対応可能で、目標引き上げが設置コストを引き下げ、水素活用を促進すると主張。より迅速で、コスト効率が高い脱炭素化や多様な消費者のニーズへの対応には、複数の技術の活用が必要であり、EU全域に偏りなく水素充填インフラも整備するべきだと訴えた。

2021年7月発表の再生可能エネルギー指令の改正案(2021年7月20日記事参照、注2)や、2022年3月発表のエネルギー分野の政策文書「リパワーEU」(2022年3月11日記事参照)で、EUは水素の活用促進を打ち出している。Hydrogen Europeなどは、EUがそうした目標を達成するには水素の生産量と需要を同時に拡大する必要があり、水素自動車などモビリティー部門がその中心的役割を担うと主張。さらに、代替燃料インフラ整備規則は水素充填インフラ整備に対する民間・公的投資を呼び込む前提条件となり、同規則で設置数や時期について「野心的」でなければ、投資家に対してネガティブなシグナルを送ることになると訴えた。

「現実的な行動計画」として2030年までの段階的な設置目標を提案

欧州委の代替燃料インフラ整備規則案の第6条では、加盟国は2030年までに汎(はん)欧州運輸ネットワーク(TEN-T) の中核と包括的ネットワーク(2021年5月17日付地域・分析レポート参照)沿いに、水素と液体水素の充填施設をそれぞれ150キロ、450キロ間隔で整備するとしている。Hydrogen Europeがそれに基づいて算出したところ、設置数は約1,100カ所となり、需要を満たす水準では全くないと指摘。さらに、一部の加盟国が目標数を修正、目標達成時期を遅らせることを検討していることにも不満を示した。そこで、目標の引き上げと「現実的な行動計画」が必要だとして、水素充填施設について、(1)2025年までに目標数の半数を200キロ間隔で設置、(2)2027年までにTEN-Tの中核ネットワーク沿いに100キロ間隔で整備を完了、(3)2030年までに包括的ネットワークも含むTEN-Tネットワーク全体で100キロ以内の間隔で整備、と段階的に整備を進めることを提案。液体水素充填施設については、2030年までに300キロ間隔でTEN-T上に整備することを目標とし、同年までに欧州の交通結節点となるTEN-T上の424の主要都市に少なくとも2カ所の水素充填施設を設置すべきだとした。

(注1)ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第3回)PDFファイル(1.2MB)」(2022年2月)も参照。

(注2)ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第2回)PDFファイル(855KB)」(2022年2月)も参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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