韓国とのFTA交渉開始で合意、鉄鋼などの分野で日本との競合激化も

(メキシコ)

メキシコ発

2022年03月04日

メキシコのタティアナ・クルティエール経済相と韓国のヨ・ハング通商交渉本部長は3月1日、両国間の外交関係樹立60周年を機にメキシコ市で会合を持ち、両国間の自由貿易協定(FTA)の交渉を開始することで合意した(2022年3月4日記事参照)。3月中にも交渉準備のための予備会合を持ち、2022年上半期中に第1回交渉会合を開催する(3月2日付経済省プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、1月26日にコロンビアで開催された太平洋同盟首脳会合(2022年1月28日記事参照)における合意を受け、2022年上半期中に韓国の太平洋同盟準加盟に向けた交渉も開始することが合意されている。

韓国とのFTA交渉は、約14年前の2007年12月に開始されていたが、貿易収支の不均衡や韓国企業の直接投資の少なさなどから、当時の経済界は韓国を相互補完的な国と捉えておらず、経済界の支持が得られないことを理由に交渉が中断されていた(2008年11月17日記事参照)。国立統計地理情報院(INEGI)によると、2021年時点でも貿易収支はメキシコ側の123億ドル以上の大幅な輸入超過だ。しかし、起亜自動車が2014年に約10億ドルを投じて北東部ヌエボレオン州に年産30万台規模の工場を建設し、2016年から生産を開始したことを受け、韓国系自動車関連企業の製造投資が増えた。現時点では経済界も、韓国とのFTA交渉に当時ほどの抵抗がないとみられ、交渉が進展する可能性は以前より高くなっている。

鉄鋼や樹脂などの分野で日本との競合激化も

メキシコの輸入において日本と韓国は、自動車・同部品、電気電子部品、機械類、鉄鋼・同製品、プラスチック樹脂など幅広い分野で競合する。日本産品については、2005年4月に発効した日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)や2018年末に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)に基づき、多くの品目で無関税の恩典が享受できるため、メキシコと韓国の間でFTAが発効することにより、日本産品の優先的市場アクセスが失われ、韓国産品との間で競合が激化する恐れがある。

しかし、完成車の分野では、起亜が自動車産業振興政令に基づき完成車生産企業に認定され、生産台数の原則10%に及ぶ原産国を問わない無関税輸入枠(ジェトロのウェブサイト、および2009年12月4日記事参照)が与えられており、既に韓国から現代・起亜グループの自動車を無関税で輸入できていることから、2国間FTA発効で大きな変化はないだろう。自動車部品や電子部品についても、自動車産業や電子産業の現地生産者は、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)を活用して、多くの部品を原産国にかかわらず(韓国製であっても)無関税や3%などの低率関税で輸入できることから、部品についても影響は軽微と考えられる。日本製品との競合状況に大きな影響を及ぼすとしたら、1部の限られた品目を除けば、PROSECの対象外で、一般関税率が15%と高い鉄鋼や鉄鋼製品だろう。また、PROSECを用いても税率が3%までしか下がらない、プラスチック樹脂(一般関税率は5~10%)などの分野でも影響が出る可能性がある。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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