2021年度日本企業の海外展開調査、危機からの回復局面、複雑化するビジネス課題へ対応模索

(世界)

国際経済課

2022年01月31日

ジェトロは1月31日、「2021年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」の結果を発表した。調査は2021年11月4日~12月7日に日本本社を対象に実施し、1,745社から回答を得た(うち中小企業1,448社)。

海外ビジネスに対する意欲の変化

2021年度に海外市場での売上高が前年比で「増加」すると回答した企業は全体の47.7%、新型コロナウイルス感染のパンデミック発生前の2019年度との比較では39.8%だった。国内市場での同割合(2019年比で30.1%が増加)と比較すれば、明るい兆しもみえるが、多くの企業の海外売上高は新型コロナ感染症拡大前の水準を超えておらず、過去最大の危機からの回復はいまだ道半ばといえる(添付資料図1参照)。

国内市場の停滞などを要因として、輸出意欲は急速に回復した。今後(3年程度)の輸出方針について「輸出の拡大を図る」企業(注1)が82.8%の高水準となり、うち「さらに拡大を図る」とした企業は75.2%で、現在の質問形式を導入した2012年度以降で最大となった。最も重視する輸出市場としては、上位国・地域の回答比率が前年度から軒並み低下する中、1位の中国(輸出拡大を図る企業の27.8%)と2位の米国(21.5%)を挙げる企業の割合がいずれも高まった。

今後(3年程度)の海外進出方針について、「海外進出の拡大を図る」(注2)と回答した企業は47.7%となり、海外での事業拡大意欲は上向くものの、新型コロナ禍前の水準には戻っていない(添付資料図2参照)。

海外進出の拡大を図る事業展開先については、米国(49.0%)が初の首位となった(複数回答)。これまで首位を維持していた中国(45.9%)は、既存拠点の拡大の動きは強まったものの、「新たに進出したい」とする企業の割合が低下し、ベトナム(46.0%)に次ぐ3位に後退した(添付資料表参照)。回答企業の海外進出状況では、既に中国に拠点を有する企業が最も多く、投資の分散意識の高まりが事業拡大先・新規進出先としての米国やベトナムの相対的な重要性を高めたものとみられる。

バリューチェーン再構築の取り組み

サプライチェーンの見直し方針をみると、販売戦略の見直し(45.0%)が最大だったものの、調達の見直し(23.4%)や生産の見直し(22.7%)は前年度から回答割合が10ポイント近く増加した(複数回答)。販売戦略の見直しを行う企業のうち、特に販売網の見直し(33.0%)、販売価格の引き上げ(16.8%)を実施する企業の割合が前年度と比べ大幅に増加した(複数回答)。調達の見直しを行う企業のうち、調達先の切り替え(59.6%)、複数調達化(35.8%)も進展がみられる(複数回答)。サプライチェーン見直しの最大の理由は「国際輸送の混乱と輸送コストの高騰」(35.2%)だった(複数回答)。

また、新型コロナ禍での海外市場開拓手段としてEC活用の動きが進んだ。海外向けの販売でECを活用、もしくは活用を検討する企業の割合(69.4%)は、初めて国内向けの販売での同割合(69.2%)を上回った(複数回答)。

気候変動や人権など共通価値への対応

人権への取り組みについては、人権尊重の方針を策定予定または検討中とする企業は4割近くに上り、自動車・同部品や繊維・アパレルなどの一部の業種では「1年以内に策定予定」との回答も目立った。また、国内外の顧客からの人権方針への準拠要請がバリューチェーン全体の取り組みを促している実態も明らかになった。

脱炭素化への取り組みでは、国内で「すでに取り組んでいる」(40.0%)が先行している一方、海外向け(23.1%)は大きく遅れている。また、海外拠点を有する企業のうち、海外で脱炭素化に取り組む企業の割合は、大企業で39.2%、中小企業では15.4%にとどまった。

(注1)「さらに拡大を図る」または「今後、新たに取り組みたい」と回答した企業

(注2)「さらに拡大を図る」または「新たに進出したい」と回答した企業

(森詩織)

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