クルツ前首相の政界引退表明により、新政権が大幅な内閣改造へ

(オーストリア)

ウィーン発

2021年12月06日

オーストリアのセバスティアン・クルツ前首相は12月2日、政界からの引退を発表した。クルツ氏は10月に、汚職疑惑のため首相を辞任したが、その後も国民党(中道右派)の党首と議員団長の職務を続けていた(2021年10月12日記事参照)。この状況がいつまで続くか、報道陣や政治の専門家の間で注目されていたが、突然の引退表明は政界や国民に衝撃を与えた。クルツ氏によると、きっかけは長男の誕生で、「政治以外の美しいもの、重要なものがあることに目覚めた」と述べているが、汚職事件に係る検察の捜査が続く中、首相としての復帰が非現実的となったことも、その決断に影響を与えたとの見方が強い。

クルツ氏は「政界の風雲児」といわれ、23歳で国民党青少年団体の団体長、25歳で外国人統合担当副大臣、27歳で外相を務め、2017年に31歳で国民党党首に就任した。同年10月の議会選挙でクルツ氏率いる国民党が圧勝し、クルツ氏が極右の自由党との連立を組み、欧州最年少の首相に就任した。

2019年に連立パートナーの自由党のスキャンダルのために連立が崩壊し、クルツ氏に対する不信任案が可決された(2019年5月28日記事参照)。しかし、2019年9月に行われた議会選挙で国民党は大差で第1党の座を維持し、2020年1月に中道左派の緑の党との連立により第2次クルツ内閣が発足した(2020年1月10日記事参照)。発足間もなく、新型コロナウイルスの感染拡大により、政府は主に新型コロナウイルス対策に追われていた。検察は2021年5月に、汚職疑惑のためクルツ氏に対する捜査を開始し、国民党本部、首相官邸、財務省で家宅捜索が行われた。クルツ氏と同氏に近い数人が2016~2018年に、同氏に有利な世論調査と好意的な新聞記事を掲載させるために公金を支出した疑いで、クルツ氏は2021年10月に辞任を余儀なくされた。

ネハンマー内務相、新首相に就任へ

クルツ氏の引退は、連立政府の国民党内で激震を起こした。クルツ氏の引退表明から数時間後には、ゲアノット・ブリューメル財務相も政界を引退すると発表し、アレクサンダー・シャレンベルク首相も辞任の意向を示した。

12月3日に開催された国民党の緊急幹部会で、カール・ネハンマー内務相が新党首に選ばれ、首相のポストも引き継ぐことが決定された。ネハンマー新首相の就任に伴い、国民党側の閣僚も大幅に入れ替わることになる。気候保護省の副大臣を務めたマグヌス・ブルンナー氏が財務相、グラーツ大学のマルティン・ポラシェク学長が教育・科学・研究相、ニーダーエースタライヒ州議会のゲアハルド・カルナ―副議長が内務相、国民党青少年団体のクラウディア・プラコルム団体長が青少年担当の副大臣に任命されるほか、シャレンベルク首相が外相に復帰する見通し。

クルツ氏の首相辞任以降、国民党と連立パートナーの緑の党との関係は緊張が続いているが、前倒し総選挙が両党にとって有利な結果をもたらす可能性がないため、連立政権を引き続き維持するとみられる。ウェルナー・コグラー副首相(緑の党党首)は、国民党側の内閣再編について「今までネハンマー内務相と協力してきたので、これから首相としてもよい実務関係を構築できる。税制改革、法制改革、気候保護への投資など、重要な目標があるので、来週初めから新内閣が仕事に取り組めること期待している」と述べ、支持を強調した。ネハンマー新首相はアレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領による任命を経て、正式に就任の予定。

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア)

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