クルツ首相が辞任、シャレンベルク外相が後任に

(オーストリア)

ウィーン発

2021年10月12日

オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は10月9日、辞任を表明した。後任は外交官出身のアレクサンダー・シャレンベルク欧州・外相で、アレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領により、11日に任命された。

クルツ首相とその関係者数人は汚職の疑いで検察当局から捜査を受け、その関連で10月6日に連邦首相府、財務省、与党・国民党本部で家宅捜索が行われていた。クルツ首相が国民党党首になる前の2016年から、同首相に有利に改ざんされた世論調査がオーストリアの無料日刊紙「エスターライヒ」に掲載され、世論調査会社や新聞社側には財務省の調査予算から謝礼金が支払われた疑いが持たれている。

クルツ首相は疑惑を全面的に否定しているが、腐敗政治の撲滅に専心している連立政権のパートナー緑の党は、このような疑惑があるクルツ首相には統治能力がなく、首相には清廉潔白な人が必要と主張し、野党が10月12日に採択にかけるとしていた不信任案に賛成する意思を示していた。一方、国民党内にもクルツ首相の辞任を求める声が上がっていた。

結局、クルツ首相は10月9日に記者会見を開催し、「疑惑には根拠がないが、混乱を招かないため辞任する」と述べ、シャレンベルク欧州・外相を後任として提案した。緑の党はこれを了承し、国民党との連立政権を続ける姿勢を示した。

クルツ首相は辞任後、政界から退くわけではなく、国民党の議員団長として議会に戻り、党首のポストを維持するため、引き続き国内政治に大きな影響力を持つとみられる。

シャレンベルク新首相は、ウィーン大学法学部卒で欧州大学院大学卒後、外務省に入省し、2019年にブリギッテ・ビアライン内閣(2019年6月4日記事参照)の外相に就任。シャレンベルク首相はクルツ前首相に近い間柄といわれ、特に移民・難民問題に関しては、クルツ前首相と同じ厳格な態度を示している。任命後の記者会見では、シャレンベルク首相はこれからもクルツ前首相と緊密に協力すると強調し、「今必要なのは責任感と安定だ。政治家はけんかすることではなく、国のために全力を尽すべきだ。これから、主要な課題がたくさんある。経済回復が始まったばかりで、2022~2023年の予算と環境・社会福祉を重視した税制改革の立法案を今週にも議会に提出する」と述べた。

また、欧州・外相の後任は、現在フランス大使のミハエル・リンハルト氏となる。ファン・デア・ベレン大統領は10日、「クルツ首相の辞任でオーストリアの政治危機が解決し、今後は内閣が一致団結してオーストリアのために働くことを期待している」と述べた。

政治危機はいったん解決されたものの、連立パートナーとの信頼関係は大幅に傷ついた。さらに、野党は首相の辞任では満足せず、内閣総辞職と前倒し総選挙を求めている。現政権が任期満了の2024年まで継続できるかどうかの展望はまだ見えていない。

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア)

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