現地日系企業の業績に差異、海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

(中国、香港、マカオ、台湾、韓国、ASEAN、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、カンボジア、フィリピン、ラオス、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、オーストラリア、ニュージーランド)

中国北アジア課

2021年12月07日

ジェトロは12月7日、「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」の結果を発表した。本調査は、8月25日から9月24日にかけてアジア・オセアニアの日系企業1万4,175社を対象に、オンライン配布・回収を行ったもので、4,635社から有効回答を得た(有効回答率32.7%)〔なお、11月30日には同調査の全世界編の結果を発表(2021年11月30日記事参照)〕。前編と後編に分けて調査結果のポイントを紹介するが、本稿はその前編。後編(2021年12月7日記事)参照。

インドでV字回復、中国は過去最高水準に、事業拡大意欲は新型コロナ前の水準に届かず

調査結果によると、2021年の営業利益見込みでは、「黒字」を見込む企業が全体で63.0%と前年(48.9%)から回復した。経済活動の再開が進むインド(61.5%)はV字回復、中国(72.2%)は(非製造業を含めた2007年度以降の調査としては)過去最高の水準となった。現地市場での販売拡大や輸出の拡大による売り上げ増加が要因として挙げられる。また、2021年の営業利益見込みで「改善」とする割合は全体が43.7%で、2020年調査(16.0%)より大幅に上昇した。

景況感を示すDI値(注)は過去最低だった2020年調査(マイナス40.7)に比べ、2021年調査ではプラスに転じた国・地域が多く、全体平均で19.8となった。DI値がマイナスだった国のうち、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマーは、変異株など新型コロナウイルスの感染拡大などによる操業環境の悪化に伴う「稼働率の低下」などが、営業利益の見込みに影響を及ぼしたとみられる。

今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の割合は43.6%と、2020年調査(36.7%)から上昇したものの、新型コロナウイルス感染拡大前(2019年)の水準(48.9%)には届かなかった。国・地域別では、インド、バングラデシュ、パキスタン、ベトナム、台湾で5割を超えた。拡大の理由は、全地域で「現地市場での売り上げ増加」と回答した割合が最も高く、7割超となった。中国で「拡大」は40.9%で、前年調査より4.3ポイント上昇したものの、全体平均を下回った。

通商環境の変化の影響について、2021年の業績への影響として「影響はない」とする回答が2020年調査(36.2%)より上昇し49.6%にとなった。米中両国の対立の長期化が見込まれる中、調達や販売先の変更を行うなど企業側で事業環境の変化への対応が進んだ可能性がある。今後2~3年の業績への影響について「分からない」は39.0%が最多、「影響はない」が36.2%と続く。依然として、先行き不透明とみる向きが強い。

経営上の問題点は引き続き賃金上昇がトップ、製造業は調達コストの上昇が目立つ

全地域・業種共通の経営上の問題点は、2020年調査と同様に「従業員の賃金上昇」(61.8%)がトップだった。前年との比較では、ラオス、インドネシア、マレーシアなどASEAN各国で「競合相手の台頭(コスト面で競合)」とする回答の上昇が目立つ。海外を含む競合相手の台頭により、進出企業のコストダウン圧力が高まっているとみられる。なお、2020年調査との比較で改善(回答率が減少)した項目は、「取引先からの発注量の減少」「主要販売市場の低迷(消費低迷)」で、世界経済の回復がプラスの影響を与えている可能性が高い。

製造業に限定した経営上の問題点では、2位の「調達コストの上昇」(63.3%)が2020年調査(30.2%)から大幅に上昇した。半導体不足や鉄鋼など原材料価格の上昇、コンテナ不足による海外輸送コストの増加が調達コストに影響を及ぼしたとみられる。

(注)Diffusion Indexの略で、営業利益が「改善」する企業の割合から「悪化」する割合を差し引いた数値。

(方越)

(中国、香港、マカオ、台湾、韓国、ASEAN、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、カンボジア、フィリピン、ラオス、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、オーストラリア、ニュージーランド)

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