日系企業の業績回復は力強さ欠く、ジェトロの2021年度海外進出日系企業実態調査(全世界編)

(世界、日本)

国際経済課

2021年11月30日

ジェトロは1130日、「ジェトロ 2021年度 海外進出日系企業実態調査-全世界編-」の結果を発表した。8月下旬から9月にかけて世界中の日系企業18,932社を対象に、オンライン配布・回収によるアンケート調査を実施。7,575社から有効回答を得た(有効回答率40.0%)。本調査は海外に展開する日本企業の現地法人や支店などを対象に実施しており、7,500社を超える企業の活動実態を詳細かつ定量的に把握できる国内で唯一の調査となる。

景気回復の業種間格差が拡大

調査結果によると、2021年の日系企業の業績は全世界的に上向きながらも、回復の勢いは力強さを欠いた。2021年の営業利益見込みでは、「黒字」を見込む企業は6割を超えたが、過去10年間で2番目に低かった。リーマン・ショック直後の2010年と比較しても回復のペースは鈍い。景気回復・需要増に沸く一部の業界と、新型コロナウイルス対策の経済活動制限が直撃する旅行などのサービス業との間の業種間格差が一段と拡大した結果となった。​

また、今後12年の事業展開の方向性に関する設問では、事業の「拡大」を見込む日系企業は44.9%で、前年度調査結果(36.8%)から増加したものの、新型コロナウイルス感染発生前の2019年の水準(48.9%)には戻らなかった。半導体不足や鉄鋼など原材料価格の上昇、コンテナ不足による海外輸送コストの増加など、経済活動再開に伴うサプライチェーンの混乱が広範な業種に影響を及ぼしている。生産コストの増加を価格に転嫁せざるを得ない状況の下、「販売価格の見直し」に取り組む企業の割合が前年度調査結果から約8割増加した。また、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を目的に、調達先見直しや複数調達化に取り組む企業の割合も、前年度調査結果と比較して、それぞれ6割、4割増加となった。​

脱炭素、人権などへ新たな対応策迫られる

また、2021年度からの新規調査項目である温室効果ガスの排出削減(脱炭素化)の取り組み状況については、「すでに取り組んでいる」と回答した企業が全体の3分の133.9%)、「まだ取り組んでいないが今後取り組む予定がある」(30.8%)を占めた。一方、「取り組む予定はない」との回答も35.3%となった。大企業と中小企業との取り組み状況に大きな格差がみられる。また、進出先国の法令や炭素税などの税制が企業の取り組みを促す強制力となっている実態が明らかになった

サプライチェーンにおける人権尊重の方針に関しては、世界全体で約5割の企業が方針を有し、そのうち半数以上が同方針の調達先への準拠を求めていることが明らかとなった。人権デューディリジェンスの義務化(法制化)で先行する欧州との取引などを通じて認識が浸透する一方、東南アジアにおける認識、取り組みの遅れが目立つ。​

デジタル技術の活用では、新型コロナ感染拡大後、マーケティング機能の強化や販売先拡大を目的に、電子商取引(EC)やクラウド技術の活用が進展している。他方、過半数の企業がデジタル技術を扱う人材不足の課題に直面しているという結果となった。

(伊尾木智子)

(世界、日本)

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