米国、デジタル課税めぐり欧州5カ国と合意、USTRは発動停止中の追加関税措置の終了発表

(米国、オーストリア、フランス、イタリア、スペイン、英国、トルコ、インド)

ニューヨーク発

2021年10月22日

米国通商代表部(USTR)は10月21日、オーストリア、フランス、イタリア、スペイン、英国とのデジタル課税問題に関する合意に基づき、これら欧州5カ国からの輸入の一部に発動する可能性のあった追加関税措置を終了すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

このデジタルサービス課税問題は、トランプ前政権で、米国の大手IT企業を狙い撃ちしたものとして、単独でデジタル課税を導入した国・地域を対象に1974年通商法301条に基づく調査を行っていた件だ。調査の結果、トランプ前政権の間にフランス、インド、イタリア、トルコ、オーストリア、スペイン、英国のデジタル課税措置が不公正であると判断され、これらの国からの輸入の一部に最大で25%の追加関税案(301条関税)が発表されていた(注)。ただし、いずれの国に対しても301条関税は未発動で、発動停止の状態が続いていた。USTRはこれら7カ国のうちインドとトルコを除く欧州5カ国との間で、米財務省がデジタル課税に関する合意に至ったことを受け、301条関税を終了するとしている。

米財務省が欧州5カ国と締結した合意外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、OECDで議論されていた「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画」における、市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し(第1の柱)が10月8日に政治的に合意(2021年10月14日記事参照)されたことを受けたもの。欧州5カ国が第1の柱の施行まで各国単独のデジタル課税の完全導入を控える代わりに、米国は発動停止中の報復措置を完全に終了させるという内容になっている。米国は第1の柱が合意された10月8日に各国が直ちに単独のデジタル課税を撤廃することを希望したが、譲歩の結果、第1の柱の施行までの経過措置として今回の合意に至った。具体的には、欧州5カ国は施行済みのデジタル課税を直ちに撤廃しなくてよい代わりに、10月8日から第1の柱が施行されるまでの一定の期間に発生した国内のデジタル課税徴収額が第1の柱の施行後1年間の課税徴収額を超えた場合、その超過分は第1の柱に基づき各国に算定・配分される法人所得税から控除されるとしている。

なお、USTRは301条関税を終了するとしつつも、財務省とともに欧州5カ国による合意内容の履行状況を監視していくとしている。また、トルコとインドは今回の合意に参加しなかったと指摘しており、これら2カ国に対しては引き続き301条関税が発動される可能性が残っている。

(注)フランス以外への追加関税案はバイデン政権発足後の2021年3月26日に発表されている(2021年3月31日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、オーストリア、フランス、イタリア、スペイン、英国、トルコ、インド)

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