米労働省、企業年金の投資先にESG要因の考慮認める規則案公表

(米国)

ニューヨーク発

2021年10月27日

米国労働省は10月13日、企業年金の投資先について、投資収益だけでなくESG(注)要因も考慮して投資先を選択できるとする規則案を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ジョー・バイデン大統領は労働省に対して、労働者の年金について投資会社がESG要因を考慮せずに運用してよいとしたトランプ前政権の規則の見直しを命ずる大統領令に署名しており(2021年5月24日記事参照)、今回の規則案はそれを踏まえて作成された。規則案は2021年12月13日までパブリックコメントを募集中だ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。具体的な施行時期は現時点で未定だが、市場関係者の間では2022年初ごろからの施行を予想する声がある。

米国では、企業年金などの年金基金の運用に対しては「フィデュシャリー・デューティー」(受託者責任)と呼ばれる義務があり、資金運用者は資金拠出者の利益の最大化のためだけに行動することが1974年制定の従業員退職所得保証法(ERISA)で定められている。しかし、この利益最大化の解釈には歴史的に変遷があり、前政権下では経済的利益のみを考慮するとした規則が制定・施行されていた。今回発表の規則では、ESG要因も考慮して投資することを可能としている。具体的には、気候変動リスクに対する備えや取締役会のガバナンスやコンプライアンスの順守度、従業員の多様性確保などを投資先決定の際の要素とすることや、議決権行使の際にESGを考慮することも認める。今回の規則案に対しては、投資顧問協会などから歓迎の声がある(ウェルスマネジメントコム10月13日)一方で、ESGファンドは通常のファンドに比べて手数料が高いという指摘があり、ESGの解釈をめぐる歴史的変遷の経緯もあって、賛否はさまざまだ。

バイデン政権は既に経済金融分野の気候変動リスクに対する包括戦略と対処方針を発表しており(2021年10月19日記事10月26日記事参照)、今回の企業年金への対応と併せて、5月20日の気候関連の金融リスクに関する大統領令への大部分の対応を終えたことになり、社会実装が今後なされることとなる。10月31日から11月12日まで英国で開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)でも当該リスクは議論される可能性があり、欧州をはじめ国際的な圧力を考えると、米国の取り組みは今後加速していくことが考えられる。

(注)ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったもの。これら3つの取り組みに配慮して事業活動を推進しているかどうかは、企業評価を測る1つの指標として使われている。

(宮野慶太)

(米国)

ビジネス短信 bb29d7c210347310