ハリス米副大統領、インド太平洋地域に関する演説で中国を非難

(米国、シンガポール、アフガニスタン)

ニューヨーク発

2021年08月25日

東南アジアを歴訪中のカマラ・ハリス米国副大統領は8月23日、最初の訪問国のシンガポールでインド太平洋地域に関する演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。同地域に対する米国の関与を強調するとともに、南シナ海での強硬な姿勢を理由に中国を非難した。

ハリス副大統領の東南アジア歴訪は、同地域との経済や安全保障面での関係強化を目的としており、シンガポールの次にはベトナムを訪問することになっている。トランプ前政権以降、米中対立が激化する中、東南アジアでは経済圏が分断されるとの懸念が高まっている。ドナルド・トランプ前大統領はASEANサミットや東アジアサミットを相次いで欠席するなど、東南アジアへの関与不足が指摘されていた。

ハリス副大統領は今回の演説の中で、「米国の東南アジアおよびインド太平洋への関与はいかなる単一国に対するものではなく、また国を選ばせるものではない。米国がこの地域に参加し友好関係を築くに当たっての明るいビジョンを前進させるものだ。その中でも重要なのが経済的ビジョンだ」と、バイデン政権の方針を示した。具体的な提言として、2023年のAPECを米国で開催することを提案した。米国は2011年以来、APECを開催しておらず、米国商工会議所など主要な経済団体や議員、有識者らが、バイデン政権に2023年の米国開催を提案するよう呼び掛けていた。インド太平洋地域の有識者らは、バイデン政権が同地域への関与を強調する上で最も効果的な政策は、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)への参加だと指摘するが(2021年3月17日記事参照)、ハリス副大統領からは地域的貿易協定に関する言及はなかった。バイデン政権は、新たな通商交渉に関して「米国の労働者と地域社会に投資した後でなければ着手しない」との方針を掲げている(2021年3月5日記事参照)。

ハリス副大統領は、米国の関与は特定の国を意識したものではないとしつつ、南シナ海に関して「北京(中国)の行動はルールに基づく秩序を損ない、各国の主権を脅かすものだ。米国はこの脅威に対して、同盟・友好国に寄り添う」と中国を牽制した。これに対して、米国の有識者やメディアは、アフガニスタン対応が米国の信頼を損なう可能性を示唆している。過去に米国の大使級として、アジア開発銀行に勤めたカーティス・チン氏は「実際の行動が言葉の信用を落とすため、アフガニスタンで今起きていることは重要だ」と指摘する(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版8月24日)。AP通信は、「アフガニスタンからの混沌(こんとん)とした米国の撤退が、同盟国に対する米国の関与に疑問を抱かせ、(インド太平洋)地域を支援するとのメッセージを複雑なものにした」と報じている(同通信8月24日)。

(磯部真一)

(米国、シンガポール、アフガニスタン)

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