米シンクタンク、日米主導のルール構築に期待感、ジェトロ「アジア太平洋広域経済圏セミナー」

(米国)

ニューヨーク発

2021年03月17日

ジェトロは3月9日、「アジア太平洋地域のルール・メイキング(Economic Rulemaking in the Asia-Pacific Region)」と題したオンラインセミナー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)と共催した。米中関係の緊張が高まる中、アジア太平洋地域の貿易環境や、日米に期待される役割などについて、有識者が議論を交わした。

CSISのジョン・ハムレ所長は冒頭、新型コロナウイルスの感染拡大や米国の政権交代など、急激な変化があった2020年を振り返った。ドナルド・トランプ前大統領を、前例のない方法で関税を活用し、政治目標を達成しようとした「ルール・ブレイカー」と評価する一方、「バイデン新政権は責任ある国際社会のパートナーとなる」とし、アジア太平洋でのルール・メイキングは同政権にとって有意義と述べた。

次に、ジェトロの佐々木伸彦理事長が基調講演を行い、米中貿易摩擦で混乱するビジネス環境での予見可能性を高めるべく、アジア太平洋地域で共通のルールが必要だと強調した。シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所(ISEAS)の調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を引用し、ASEANの有識者の76%が最も影響力のある経済国は「中国」と回答する一方、ルールに基づく秩序を維持する指導役として信頼する国には、EUと並び、米国(28.6%)を挙げる割合が高いと紹介した。この調査結果などを踏まえ、佐々木理事長は、バイデン政権に対して、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)への参加や日米豪印戦略対話(QUAD)の活用、日米デジタル貿易協定のようなデジタル貿易のルール形成の推進など、アジア太平洋への関与を促した。

続くパネル討論に登壇した、早稲田大学の浦田秀次郎名誉教授は、日本はCPTPPや地域的な包括的経済連携協定(RCEP)を通じて、アジア太平洋地域の通商ルールを効果的に構築してきたと評価した。今後の日本の通商戦略上、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」が重要とし、米国など有志国と協議の上、FOIPを発展させるべきだと述べた。バイデン政権には、中国に対抗するためのCPTPP復帰や、APECへの積極的な参加を提言した。

CSISのマシュー・グッドマン上級副所長は、浦田氏の提言に賛同しつつ、バイデン政権は新型コロナウイルスへの対応や経済再建を当面優先し、大規模な貿易協定への復帰には時間を要するとの見方を示した。今後の日米協力が期待できる分野として、科学技術や気候変動を挙げたほか、日米オーストラリア主導の海外インフラ支援の枠組み「ブルー・ドット・ネットワーク」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますや、産業補助金問題などに対応する日米欧三極貿易相会合を今後も継続・発展させるべきと助言した。

米中貿易摩擦の行方について、CSISのスコット・ケネディ上級アドバイザーは、米中デカップリングの拡大に否定的な見解を示し、今後さまざまな規制が両国で発動されるが、その内容は限定的で、予見可能性を伴う対立が続くと予想した。バイデン政権の対中政策については、香港や新疆ウイグル自治区などでの人権侵害をめぐり米国の単独行動が想定される一方、輸出管理や投資規制など幅広い分野に関し、国防総省や国家安全保障会議(NSC)など政権内の議論を経た上で、日本を筆頭に同盟国との協調路線が進むと述べた。

他方で、オーストラリア戦略政策研究所のフォン・リ・トゥ上級アナリストは、前出のISEAS調査で、ASEANの有識者の半数以上(56.3%)が、米中デカップリングの脅威により、東南アジアが米中2つの経済圏に分断されると回答していることを紹介した。こうした中、CPTPPとRCEPは台頭する保護主義への強力な対抗事例となると述べ、また、東南アジアが新型コロナウイルスの影響から経済回復する上で重要な手段となるデジタル貿易について、日米主導のルール・メイキングに期待を寄せた。

(藪恭兵)

(米国)

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