バイデン米大統領、国家安全保障戦略の暫定的な指針を発表

(米国)

ニューヨーク発

2021年03月05日

ジョー・バイデン米国大統領は3月3日、国家安全保障戦略の暫定的な指針外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。正式な国家安全保障戦略を策定するまでの指針として、連邦政府各省庁に対して同指針に沿った行動をとるよう求めている。また、アントニー・ブリンケン国務長官が同指針の発表前に外交政策について演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行い、バイデン政権が繰り返し強調している新型コロナウイルス対応や民主主義の強化、同盟関係の強化など8つの優先課題を特定した。

画像 ホワイトハウス「国家安全保障戦略の暫定的な指針」

ホワイトハウス「国家安全保障戦略の暫定的な指針」

指針は、これまでバイデン政権が対外的に発信してきた理念、方針をあらためて整理したものとみられ、中でも、バイデン大統領が2月に初の国際舞台として登壇したミュンヘン安全保障会議での演説(2021年2月22日記事参照)が中核となっている。まず、前提とする国際情勢について、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をはじめとする今日の重大な危機は国境を越えるもので集団的な対応が必要なこと、自国をはじめ世界の民主主義が包囲されていること、中国の台頭など世界における力の配分が変化し新たな脅威を生み出していること、などを挙げた。その上で、米国の安全保障を確保するために求められることとして次の3点を指摘している。

  • 国民、経済、国家防衛、民主主義を含む米国の強さの根源を守り育てていく。
  • (世界において)好ましい力の配分を促進し、敵対勢力が米国と同盟国に脅威を与えたり、国際協調体制へのアクセスを阻害、または重要な地域を支配したりすることを抑止・防止する。
  • 強固な民主国家による同盟・友好関係、多国間枠組み・ルールにより裏打ちされた、安定的で開放された国際システムを主導、維持する。

経済的側面からは、経済安全保障は国家安全保障であり、国の屋台骨である米国の中間層の強さこそが長年に及ぶ米国の優位性だとし、「通商・国際経済政策は特権を有する少数のみならず、国民全てに役立たなければならない」との方針をうたっている。具体策としては、既存の通商ルールの執行やWTO改革の推進など、米通商代表部(USTR)が3月1日に発表した通商政策課題の内容を繰り返している(2021年3月3日記事参照)。他方、新たな通商交渉については、「米国の労働者と地域社会に投資した後でなければ着手しない」と、2020年民主党綱領における方針を政権の方針として明記した。

外交における8つの課題

ブリンケン国務長官は、今回の指針の発表に合わせて、外交政策に関する演説を行い、次の8点を優先的な課題として挙げた。(1)新型コロナウイルスの収束と国際的な衛生安全保障の強化、(2)経済的危機の克服とより安定的で包摂的な国際経済の構築、(3)民主主義の刷新、(4)人道的で効果的な移民制度の創設、(5)同盟・友好国との関係の再活性化、(6)気候変動への対応とグリーン・エネルギー革命の推進、(7)技術における主導的地位の確保、(8)21世紀における最大の地政学的試練である対中関係の管理。

(磯部真一)

(米国)

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