ワクチン接種証明の提示義務化の動き広がる

(世界、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中国、韓国、EU、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スイス、ロシア、北米、米国、カナダ、中南米、ブラジル、メキシコ、チリ、ペルー、中東、アラブ首長国連邦、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、アフリカ、南アフリカ共和国)

国際経済課

2021年08月06日

新型コロナウイルスのデルタ型変異株の感染拡大が世界全体で広がる中、相対的に接種率の低い国・地域の政府は、大規模ワクチン接種プログラムの全国展開を急ぐ。また、欧州や中東などを中心に、主要な国内施設への入場や公共交通機関の利用に際し、ワクチン接種証明の提示を義務付ける動きが広がり始めた。

7月28日~8月5日までに現地で収集した情報を基に、世界主要国・地域におけるワクチン接種の進展やワクチン接種証明書の発行・相互承認の状況、国内活動制限の強化・緩和の動きなどをまとめた(添付資料表参照)。

東南アジアは、8月に入り、タイやマレーシアで新規感染者が過去最多を更新するなど、感染拡大の新たなピークを迎えており、各国政府は、在留外国人も対象に含めた集団接種計画を加速している。1日当たり86万回接種を目標に大規模接種計画を展開中のタイでは、1回目の接種完了者が6月末時点の約711万人から、7月末時点で約1,380万人に拡大。8月1日には外国人向けのワクチン接種登録に関する新たなウエブサイトの運用が始まり、全ての年齢層の外国人の予約登録が可能となった(2021年8月3日記事参照)。また、在タイ日本大使館は、政府および主要病院との連携により、日本人専用の受付・接種プログラムを展開している。

感染拡大が深刻なマレーシアでは、8月2~22日の期間、首都圏9カ所の接種会場で事前の予約なしにワクチン接種が可能となった(18歳以上対象)。ただし、外国人の接種が可能なのは1カ所のみとなる。また、ベトナムでは、保健省が7月8日、2021~2022年の新型コロナウイルスワクチン接種計画を承認、2021年中に18歳以上の少なくとも50%、2022年3月末までに全人口の70%以上のワクチン接種完了を目標に定めた。7月10日には、在留外国人も対象とするワクチン接種登録サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを立ち上げた。

感染拡大に伴う規制強化の動きでは、インドネシアにおいて、7月6日に導入された出入国規制強化に伴い、外国人の入国に際し、ワクチンの2回接種が完了していることを示す接種証明書が必要とされている。マレーシアでは、8月1日から公共交通機関、および混雑する公共の場所において、マスクの着用が義務化された。市内の取り締まりも強化され、違反者に罰金を科す事例も報告されている。

EU域内では、8月4日時点で、18歳以上の約6割のワクチン接種が完了(初回接種は7割超)。ワクチン接種証明書の提示を条件とする入国制限の解除や、入国後の防疫措置の免除などが進展する。一方、主要各国では、各種娯楽施設や飲食店、公共交通機関の利用に際し、ワクチン接種証明の提示を義務化することで、感染拡大防止を図る措置の導入が徐々に広がりつつある。フランス政府は、18歳以上を対象に、50人以上を受け入れる施設(美術館・博物館、映画館・劇場、スポーツ施設)において、7月21日から、「衛生パス」(注)の提示を義務付けている。さらに、8月上旬から、レストランや見本市会場、長距離の公共交通機関等の利用の際に衛生パスの提示と確認が義務付けられる予定。イタリアでも8月6日以降、同国のワクチン接種証明にあたる「COVID-19グリーン証明書」の所持を、国内の施設・イベント(飲食店の屋内席、一般公開イベント、文化施設、展示会、会議など)へのアクセスに義務付ける。また、スペインでも、一部の自治州で、高感染地域に限定し、飲食店の店内利用などの際に証明書の提示を義務付ける規制を導入している。

同様の動きは中東地域の主要国の間でも広がりをみせる。アラブ首長国連邦では、8月1日以降、政府機関への訪問に際し、ワクチン接種完了者であることの証明、もしくはPCR検査の陰性証明の提示が必須となった。サウジアラビアでも、8月1日から、公的・民間・商業・娯楽・文化・スポーツ施設への入館、イベントへの参加および公共交通機関の利用に際し、ワクチン接種もしくは感染後の回復の証明が義務付けられた。政府指定のアプリ「Tawakkalna」での表示が必須条件となる。また、6月に国内の活動制限を原則、全て解除したイスラエルにおいても、7月29日から、屋内外を問わず100人以上が参加するイベントについて、ワクチン接種証明(グリーンパス)の提示を義務付ける措置が施行されている。

米国でも、デルタ型変異株のまん延により新規感染者数が急増している。米疾病予防管理センター(CDC)によると、7月の新規感染者数は138万人で、6月の新規感染者数の3.4倍となった。ジョー・バイデン大統領は7月29日、連邦政府職員に対してワクチン接種の有無を確認すると発表しているなど、政府職員に対してワクチン接種証明を求める動きがみられる(2021年7月30日記事参照)。さらに、ニューヨーク州(2021年7月29日記事参照)やカリフォルニア州(2021年7月29日記事参照)などでは、職員の接種義務化の動きが進んでいる。また、ワクチン接種完了者の活動制限に関する方針も改められており、CDCは7月27日、ワクチン接種完了者であっても屋内ではマスクを着用するようガイダンスを変更している(2021年7月29日記事参照)。一方、新規感染者数が横ばいで推移するカナダでは、8月9日よりワクチン接種を完了した米国市民に限り、不要不急の渡航でもワクチン接種証明書があれば入国できることになる(2021年7月21日記事参照)。また、カナダ国内の感染状況が引き続き良好であれば米国以外からの入国についても9月7日以降解禁する予定だ。

その他主要国・地域の状況については添付の一覧表を参照。

(注)衛生パスは、フランス独自の証明書で、(1)ワクチン接種証明、(2)48~72時間以内のPCR検査陰性結果証明、(3)回復証明、を包含する。

(伊藤博敏)

(世界、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中国、韓国、EU、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スイス、ロシア、北米、米国、カナダ、中南米、ブラジル、メキシコ、チリ、ペルー、中東、アラブ首長国連邦、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、アフリカ、南アフリカ共和国)

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