国政選挙後の先行き不透明感で公式と非公式の為替レート乖離幅が拡大

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2021年08月24日

アルゼンチン中央銀行の発表によると、7月末日時点のグロスの外貨準備高は425億8,200万ドルと、2020年12月以降8カ月連続で積み増しに成功した(添付資料図1参照)。これを支えたのは好調な穀物・油脂類の輸出だ。

国家統計センサス局によると、2021年1月から7月までの穀物の累計輸出額は前年同期比2割増の75億3,200万ドル、油脂類は同8割増の51億4,000万ドルとなっている。外国為替市場の取引状況をみると、穀物・油脂産業によるドルの売却額が3月から6月にかけて大きく増加している(添付資料図2参照)。その結果、中銀はドルを買い越し、これが外貨準備高の積み増しにつながった。

外国為替相場をみると、8月19日現在の公定レート(インターバンクレート)は1ドル97.29ペソ。これに対してブルーレート(注)は1ドル179ペソで、公定レートとブルーレートの乖離幅が7月以降、急激に拡大している(添付資料図3参照)。アルゼンチンでは現在、厳しい資本取引規制によって外貨が流入しづらい。その結果、外国為替市場での取引が貿易代金の決済などに限られるため公定レートの変動幅は小さい。一方、ブルーレートは市場心理に敏感に反応して大きく変動する。最近の乖離幅の拡大は、11月に行われる国会議員中間選挙を前に、債務問題など選挙後の経済への先行き不透明感が高まっていることを示している。

乖離幅の拡大は公定レート切り下げを想起させ、物価上昇期待や輸出控えにつながる。また、過大評価された状態ともいえる公定レートは、政府が抑制したい輸入を促すことにもつながる。そのため、政府は外貨準備を使ってブルーレート上昇の抑制に動いているが、ブルーレートの上昇圧力は強いままだ。

下半期は、上半期のような穀物輸出による大きな外貨収入が見込めないことや、IMFへの債務返済が本格化することから、外貨繰りは厳しくなるとみられる(2021年3月30日記事参照)。8月17日時点の外貨準備高は419億8,900万ドルと前月末日比5億9300万ドル減となっている。公定レートとブルーレートの乖離幅がさらに広がれば、通貨切り下げへの警戒も高まる。2021年下半期は国政選挙に向けて外貨準備高と為替レートの動きに注目が集まる。

(注)ブルーレートは、非公式の為替取引に適用される為替レート。ブルーレートでの取引は違法とされている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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