2030年までの5GW規模の水素製造に向け、英国初の「水素戦略」を発表
(英国)
ロンドン発
2021年08月23日
英国政府は8月17日、2030年までに5ギガワット(GW)規模の低炭素水素製造能力を開発するためのロードマップなどを示した「水素戦略」を発表
した(添付資料表参照)。同目標は政府が2020年11月に発表した「グリーン産業革命のための10項目の計画
」(2020年11月20日記事参照)に基づいたもので、英国の約300万世帯の家庭が毎年消費する天然ガスの量に相当する。
同戦略では、ネットゼロを達成するために低炭素水素は不可欠とし、グリーン水素とブルー水素(注1)を大量製造する計画が示されている。
政府は、2030年までに5GWの低炭素水素製造能力を開発することにより、2023年から2032年の間に二酸化炭素(CO2)換算で約4,100万トンの排出削減が可能、と試算している。政府はまた、水素需要が2030年から2035年の間に倍増し、2030年代から2040年代にかけて急速に増加し続けるとし、2050年には250~460テラワット時(TWh)の水素が必要となり、英国の最終エネルギー消費量の20~35%を占めるとしている(添付資料図1、図2参照)。
国内ではグリーン水素、ブルー水素の製造や水素専燃発電などのプロジェクトが既に計画されている(添付資料図3参照、2021年6月15日付地域・分析レポート参照)。
政府の算出によれば、英国の低炭素水素経済は9億ポンド(約1,359億円、1ポンド=約151円)規模で、2030年までに9,000人以上の質の高い雇用を創出し、40億ポンド以上の民間投資が見込まれる。
同戦略の発表を受け、企業や業界団体からは歓迎の声が多いものの、エネルギー関連の業界団体のリニューアブルUKのダン・マクグレイル最高経営責任者(CEO)は「英国が世界をリードしているグリーン水素産業の発展に十分に焦点を当てていない」とし、「グリーン水素に関する明確な野心的目標を打ち出すべき」と計画の修正を求めた。
同戦略は、2021年11月に英国グラスゴーで開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に先立ち、政府が発表している一連の戦略の1つ。既に「産業脱炭素戦略」、「輸送部門の脱炭素化戦略
」、海底油田・ガス産業の脱炭素計画である「北海移行協定
」を発表しており、2021年中に「熱・建物戦略」と「ネットゼロ戦略」の発表を予定している。
水素価格の低減に差額決済契約制度を提案
政府は同8月17日、低炭素水素と化石燃料の価格差を削減すために、洋上風力発電市場を活性化させた差額決済契約(CfD)制度(注2)の導入提案を含む、低炭素水素のビジネスモデルについて、2021年10月25日までの期間で意見公募を開始した。
さらに、同期間で、2020年代の低炭素水素製造の拡大を支援する、最大2億4,000万ポンドのネットゼロ水素基金(NZHF)についての意見公募と、低炭素水素を定義する英国規格についての意見公募
を開始した。
(注1)水素には製造過程により以下の分類がある。
- グリーン水素:再生可能エネルギーを利用して製造される水素。
- ブルー水素:化石燃料を原料とする。ただし、製造過程で発生するCO2を炭素回収・貯留(CCS)または炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)を行い、有効利用または地中に貯留する。
(注2)電事業者の再生可能エネルギーへの投資リスクを減らすため、対象となる電源の固定価格(ストライクプライス)と市場価格の間の変動する差額を政府が補填(ほてん)する制度。
(宮口祐貴)
(英国)
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